本研究は、タイの民族的マイノリティである山地民の教育保障と多文化共生教育の課題に関する研究である。本研究は、次の2つの研究課題に取り組むものである。【課題1】山地民への教育保障が進む中で、山地民の子どもたちがいかなる民族文化・アイデンティティを保持しているのか、またその要因について複数の事例の比較を通して明らかにすること。【課題2】山地民の子どもたちとタイ族の子どもたちが、お互いの存在(人権意識)や文化をいかに承認・理解しているのかについて明らかにすることである。 本研究は2019年度から2022年度にかけて実施してきたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、渡航制限があり、またタイの学校が長期間にわたり閉鎖されていたことから、予定していた通り、研究を進めることができなかった。本研究はタイに住む少数民族の教育機会の問題に取り組むものであるが、長期間の学校閉鎖により、タイ全体として教育機会の確保の問題が生まれた。 その中でも2019年度と2022年度に現地の学校で調査を行い、【課題1】については十分に研究課題を達成することができた。本科研費以前の研究も含めて、一般の国立学校、福祉学校、仏教学校などでの調査において、山地民の子どもたちは、自分たちの言語や文化を維持しており、民族アイデンティティとナショナルアイデンティティを併せ持つことが明らかとなった。【課題2】に関して、山地民の子どもたちに対する調査はできたものの、タイ族の子どもたちに対しては学校で教員に対してインタビューをするに留まり、当初計画していた成果までには至らなかった。
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