2022年度は、シカゴ大学附属実験学校におけるアリス・テンプルの実践理論書『幼稚園と小学校第1学年の統一された教育』(Unified Kindergarten and First-Grade Teaching)を手がかりに、テンプルによるデューイの教育実践理論の受容と展開について明らかにした。その中で、デューイ在職時におけるシカゴ大学附属実験学校とテンプル在職時における同学校の実践的性格を比較することを通して、テンプルがデューイの同校実践理論の何を継承し、何に対して発展的に修正を加えていったのかについて、同校における実践の目的と同校幼児教育のカリキュラムに焦点化して考察した。 テンプルは、社会的側面と心理的側面から立案されたカリキュラムと目的と結びついた子どもの主体的活動を旨とする学習理論をデューイから踏襲した。カリキュラムの内容に関しては、社会的側面としての「オキュペーション」の活動目的の意識化と心理学的側面としての精神能力の付随化が幼児教育においてもあらためて図られた。他方で、デューイ在職時には初等教育における「オキュペーション」の幼児教育へ下降的拡張により、初等教育に軸足を置いた幼稚園のプレスクール化で幼小接続が図られていたのに対し、テンプル在職時には、接続カリキュラムの理論がより明確にされ、その中では、小学校カリキュラムから幼稚園カリキュラムへの下降的拡張のみならず、幼稚園カリキュラムから小学校カリキュラムへの上昇的拡張も図られていた。 研究期間全体を通して、ピーボディ、ヒル、テンプル、ドブスといった幼児教育実践家の教育思想、殊にカリキュラムの基底にある実践理論の考察により、フレーベル由来の幼稚園の独自性が初等教育との接続により批判的に検討されていくなかで進歩主義幼稚園教育実践家によってどのように作り変えられていったかについて明らかにした。
|