研究課題/領域番号 |
19K14120
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
布川 あゆみ 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (80799114)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ベトナム系移民 / 中国系移民 / ドイツ / 学校適応 / 主体性 / 生活の保障 |
研究実績の概要 |
今年度も新型コロナウィルスの拡がりによって、比較調査研究の要でもある現地調査(ドイツでのフィールドワーク)を行うことができず、比較研究を行う物理的難しさが継続した1年であった。このような困難な状況のなかで、どのように研究を進めていけるかを日々、刻々と変化するドイツ・ヨーロッパの社会状況に目を向け、情報を収集しながら、考えることに注力した。 その一環で、コロナ禍において、前例のない学校現場での取り組み(一斉休校、分散登校、オンライン授業の実施など)に対し、ドイツでは生徒・保護者を中心に抗議活動が活発に行われていることに目がとまり、現地の教員や教職員組合、保護者、教育団体関係者へのインタビューをオンライン上で行った。教育の保障に向けて、子どもの生活面、特に社会的不利な立場にある子どもの生活を安定させるという視点がコロナ禍ではより強くもたれていることが分かった。さまざまな声があがり、議論がなされた結果、新たな政策の展開あるいは政策の見直しにつながる一連のプロセスを確認することができた。 このプロセスから、移民の「主体性」という新たな着想を得て、過去に実施した調査データを見直し、研究会での発表を通し、最終的に論文として研究成果を発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍以前の現地調査で収集したデータを、新たに着想を得た「主体性」という視点から分析し、1本の論文としてまとめる作業を行えた。この中で、ドイツ社会においてモデル・マイノリティとして位置づくベトナム系移民と中国系移民について取り上げた。 ベトナム系移民については移民第二世代の多様化が進んでいることや、包摂・排除される客体としてではなく、受け入れ社会に自らを組み込もうとしている「主体」としての姿を確認することができた。同様に、中国系移民についても中国語補習校の運営、またそこでの中国語習得に向けた親子の戦略から、ドイツ社会に自らを組み込もうとしている「主体」としての姿を見ることができる。したがって、ベトナム系移民と中国系移民に着目したことで、かれらを取りまく「問題」の見えづらさは「主体」として自らを社会に組み込もうとした結果であることが明確となった。 今年度、現地に渡航しての調査は実施できていないものの、オンライン上で教育関係者へのインタビューを複数回行い、刻々と変化する日々に対する人々の思いや苦悩を聞き取ることができた。コロナ禍の影響が従来のドイツの学校のあり方を変えていくその一端が、インタビューから明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
ヨーロッパ(ドイツ)への渡航は、依然として見通しづらい状況にある。今後1年も、現地での調査を念頭においた研究計画ではなく、日本に滞在しながら行える研究活動を軸に進めていくことが重要だと考える。 そのうえで、今年度のオンライン上の調査では、役職者へのインタビューが中心になったという課題が残る。今後は、役職者以外の新任教員や移民生徒へのアプローチが可能となるよう、オンライン上で調査を実施する際の研究対象者との関係構築のあり方に特に工夫をはかり、多面的な視点から、ドイツにおける移民の社会統合をめぐる問題を捉えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査のための旅費を計上していたが、新型コロナウィルス感染症の影響により、現地に渡航することができなかったため、翌年度の調査実施を目指し、次年度使用額が生じた。
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