本研究は、急激に市場化が進んできているベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)に焦点をあて、企業的特徴をもつ新たな民営大学である私塾大学の社会との関連性とその実態について検討することで、社会主義国ベトナムにおいて私塾大学が正統性を獲得しようとするメカニズムを実証的に明らかにすることを目的とするものである。こうした研究目的のもと、令和2年度(2年度目)は以下の2点を中心に研究を実施した。第1に、1年度目に実施した企業設置型大学であるFPT大学及び民立大学から類型転換した私塾大学であるタンロン大学を対象とする質問紙調査の結果に基づき、収集したデータを分析するとともに、私塾大学の管理運営体制の制度的変遷をふまえて私塾大学の正統性をめぐる社会受容のありようについて考察した。具体的には、両私塾大学に在籍する学生の民族のタイプ、社会的属性、学習動機、就職希望先等について実態と私塾大学の社会受容の特徴について明らかにした。研究成果はアジア教育研究会において発表した(2020年7月)。第2に、2年度目はコロナ禍のもとでベトナムにおける現地調査が著しく困難となったため、私塾大学の受容に至った「社会」の変容の研究については日本国内での文献調査を中心に進めた。具体的には、山口大学においてベトナム共産党機関紙『ニャンザン』を、京都大学において教育訓練部機関誌『教育研究』の記事・論考を渉猟し、主としてドイモイ体制下の社会の変容と高等教育の制度変容について広く情報収集をおこなった。なお、ドイモイ体制下で変貌する高等教育制度については文部科学省『世界の高等教育』において公表した(2021年3月)。
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