研究課題/領域番号 |
19K14136
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研究機関 | 白鴎大学 |
研究代表者 |
島埜内 恵 白鴎大学, 教育学部, 講師 (30805263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 移民教育政策 / ELCO / 出身言語・文化教育 / 母語教育 / フランス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、定住性に立脚するのではなく、多様かつ複雑な移動性を包摂しうる教育制度・政策の在り方を明らかにすることである。この目的を達成するために、フランスと9カ国の出身国との二国間協定を基盤として1973年から現在まで行われている「出身言語・文化教育(Enseignement des langues et des cultures d'origine:以下、 ELCO)」プログラムを分析の対象とし、国境を越えて移動する子どもの教育保障のひとつの方策として、受入国と出身国の二国間連携モデルを探る。ELCOプログラムとは、フランスの公立学校で週に1回、主に課外の時間に実施されている各国の言語や文化の教育である。その授業を担うのは、9カ国が採用、派遣、給与を負担する外国人教員(以下、ELCO 教員)である。プログラムの対象となる9か国の出身国とは、アルジェリア、クロアチア、イタリア、モロッコ、ポルトガル、セルビア、スペイン、トルコ、チュニジアである。 本年度は、前年度に引き続き現地調査を実施することができなかったものの、引き続きELCOプログラムの「文化」、関連して宗教や宗教教育、およびフランスが掲げる「ライシテ(非宗教性、世俗性)」原則にかかる文献研究を行った。加えて、フランスにおける「移民教育政策」として位置づくELCOプログラムに対して向けられてきたさまざまな評価の中でも、特にプログラムの「廃止」を複数の主体が示していることに着目し、この点にかかる同プログラムへの評価やそこでの論点を明らかにした。 この「廃止」にかかる議論の検討の一部については、紀要に投稿を行うとともに、移民の「統合」に関連する観点から、フランスにおける新法について学会のラウンドテーブルにて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、ELCOプログラムに関する文献研究を進めることができた。中心として進めたのは、宗教教育や「文化」に関わる領域に関するもの、およびELCOプログラムの「廃止」を示すものである。フランスに限らず、宗教と教育の関係、および「移民教育政策」の分類やその原理等を含む先行研究の検討も、あわせて行った。 一方で、計画当初2021年秋、2022年春に予定していたパリ市とストラスブール市における現地調査は、新型コロナウィルス感染症の影響により引き続き実施することができなかった。調査対象としては、前年度と同様に、これまで一度も関係者への調査を実施できていないチュニジア、モロッコ、およびクロアチアのELCOプログラム関係者と、パリ市とストラスブール市で活動する各出身国の言語や文化に関する市民団体、およびELCOプログラムを開講するストラスブール市の小学校等を予定していた。これまでに一度以上調査を実施した関係者のうち、2名と電子メールでのやりとりを行い、近況を得た。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、2022年秋、あるいは2023年春に現地調査を希望しているが、2022年度も新型コロナウィルス感染症の影響により実現できない可能性もある。渡航が難しいと判断される場合、これまでの研究において、一度以上インタビュー調査を実施できている対象者に対しては、現地への渡航を経ない形式での聞き取りも可能な範囲で模索したい。 文献調査については、日本でも入手可能である資料や先行研究の入手と分析を継続して行う。ELCOプログラムについては、日本の文部科学省に相当する国民教育省が、通達や業務通知等により関連する方針等を示しているが、これまで、教育行政の領域以外の組織によってもELCOプログラムに対して評価が向けられてきた。この、教育行政以外の組織によるELCOプログラムへの見方や評価等について引き続き分析対象とし、「移民教育政策」として実施されてきたELCOプログラムが教育の領域を超えて関心が寄せられる背景や、ELCOプログラムの「問題」とされている側面、それらとフランスが掲げる国家理念である共和国原理との整合性等について引き続き検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由は、新型コロナウィルス感染症の影響により、フランスでの現地調査が実施できなかったことである。今後政府方針として渡航にかかる制限が大きく緩和されたとしても、学校・授業への渡航者の訪問や対面でのインタビュー等は引き続き制限されている可能性があることが予測される。このことから、それぞれの調査先に個別での方針や意向の確認と調査依頼を行い、可能な場合は渡航をともなって調査を行う予定である。
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