研究課題/領域番号 |
19K14136
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研究機関 | 白鴎大学 |
研究代表者 |
島埜内 恵 白鴎大学, 教育学部, 講師 (30805263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 移民教育政策 / ELCO / 出身言語・文化教育 / 母語教育 / フランス / 共和国原理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、定住性に立脚するのではなく、多様かつ複雑な移動性を包摂しうる教育制度・政策の在り方を明らかにすることである。この目的を達成するために、フランスと9カ国の出身国との二国間協定を基盤として1973年から現在まで行われている「出身言語・文化教育(Enseignement des langues et des cultures d'origine:以下、ELCO)」プログラムを分析の対象とし、国境を越えて移動する子どもの教育保障のひとつの方策として、受入国と出身国の二国間連携モデルを探る。ELCOプログラムとは、フランスの公立学校で週に1回、主に課外の時間に実施されている各国の言語や文化の教育である。その授業を担うのは、同プログラムの対象である9カ国が採用、派遣、給与を負担する外国人教員(ELCO教員)である。 本年度は、感染症の影響により研究期間中一度も実施できていなかった現地調査を行った。現地調査では、関連する先行研究の収集とともに、「廃止」が示されたあとのELCOプログラムの実態を確認するひとつの手段として、特に小学校の学校審議会の議事録をいくつか入手した。 また、昨年度の紀要論稿の延長線上として、ELCOプログラムの「廃止」にかかる議論に関して学会発表を行った。この「廃止」議論は、①「統合高等審議会」(HCI)、②「共和国におけるライシテ原則の適用に関する検討委員会」(スタジ委員会)、③「平等・市民性関係閣僚委員会」(CIEC)、④「マクロン大統領による反分離主義対策」という複数の主体により示されているものである。これらを対象とし、①同プログラムに見いだされる「問題」性、②「廃止」の具体案、および③解決の方向性の3点に着目して分析し、「廃止」案に見られる傾向や論点を整理するとともに、移民教育政策として開始されたELCOプログラムの「廃止」後の方向性を含めて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地調査により、先行研究とともに「廃止」が示された後のELCOプログラムに関連する資料を収集することができた。今後これらの分析を通して、ELCOプログラムの変化を検討する予定である。一方で、今回の調査ではELCOプログラムの関係者への聞き取り調査を実施することができなかったため、この点が今後の課題となる。 1973年に導入されたELCOプログラムの「廃止」が繰り返し示される背景として、移民の「統合」に関する力学が強固にはたらいていると考えられる。一方で、上述の学会発表で検討した結果、これらの「廃止」は、字義通りの完全な消滅というよりは外国語教育への切り替えという側面が強いという点を押さえておく必要がある。これは、ELCOプログラムがおびる「移民的要素」(池田賢市(2001)『フランスの移民と学校教育』明石書店。)をより薄めようとするような流れに位置するものと考えられる。移民教育政策自体の存続に関する説得性や納得感も薄れていると考えられる中、ELCOプログラムが半世紀にわたって担ってきたと考えられる「移民教育」としての機能はどのようなものであり、それは「廃止」ののちどのように変化するのか。これらの点を引き続き検討していくこととする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も現地調査を実施する予定である。今年度と同様に先行研究や関連資料を収集するとともに、ELCOプログラムの関係者への聞き取り調査の実施を見込んでいる。聞き取り調査については、「廃止」方針が示される前と後について、特にマクロン大統領による同方針の提示前と後の変化、そしてそれに対する意見や考え等を中心とする予定である。文献調査についても、「廃止」前と後でどのような変化があるのかという点への着目は重要といえる。 また、次年度は、感染症の影響により延長して取り組んできた本研究の最終年度となる。研究の目的として設定している「定住性に立脚するのではなく、多様かつ複雑な移動性を包摂しうる教育制度・政策の在り方」を考えるにあたっての重要な論点のひとつとして、「移民の子ども」という特定の存在を対象化する政策・制度と、「すべての子ども」に関わる学校教育制度、公教育制度との関係性や整合性という点が示唆される。この点をふまえ、ELCOプログラムそのものの分析・検討はもちろんのこと、移民を含めた特定の対象を設定することになる政策・制度と学校教育制度との関係性や位置取り等を視野に入れながら検討していくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
3か年の研究期間中毎年度1回、計3回予定していた現地調査について、感染症の影響により前年度まで一度も実施することができなかった。本年度初めて実施することができたものの、当初の計画分のすべての現地調査については現時点で完遂できていないため、次年度使用額が生じている。
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