研究課題/領域番号 |
19K14139
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
田中 真秀 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (50781530)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教職員給与 / 地域格差 / 都道府県 / 政令指定都市 / 義務教育費国庫負担 / 国と地方自治体 / 中央集権 / 地方分権 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の教員給与システムを①国―都道府県―市町村の関係、②自治体ごとの人件費、③労働問題等の多角的な視点から検証することによって、日本の教員給与施策の構造と課題を明らかにすることが目的である。特に、①地方分権改革によって都道府県ごとの義務教育諸学校における教員給与費の水準は維持できるのか、②学校における複数の職と比較して教員給与水準は適切なのかといった課題を持っている。そのために(1)教員給与政策研究(文献レビュー)、(2)47都道府県の教員給与費の実態調査、(3)先進自治体における教員給与の実態調査を行うことを想定している。 2019年度は当初の予定通り、「現状の教員給与政策の整理」を行った。具体的には、1.国内文献レビュー調査(ナショナルミニマムの視点で整理)、2.47都道府県・20政令指定都市にアンケート調査を実施した。1.国内文献レビュー調査では、2020年度実施を予定している国内先進自治体調査に向けて、web等を用いた先進事例先の調査選定と情報収集を実施した。加えて、既存の義務教育費の公的負担論の議論に加え、地方分権化における政令指定都市への教員給与の権限移譲における整理・検討を行った。2.のアンケート調査では、これまでの研究代表者の研究蓄積を踏まえ、2019年度の義務教育における教員と学校事務職員の給与制度とそれに伴う学校における他職種の労働実態を調査した。特に、国と都道府県が負担していた義務教育諸学校の教員給与費が、2017度より政令指定都市も給与負担する法改正について、教員給与格差が生じる可能性や政令指定都市が教員給与を負担するに至る過程について検証している。 このような視点をもとに、都道府県間の教員給与に「差」は生じるのか、「差」の持つ意味は何かを明らかにするために、今後も各自治体の会議録や給料表といった資料を収集し、分析枠組みを作成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、(1)教員給与政策研究(文献レビュー)、(2)47都道府県の教員給与費の実態調査、(3)先進自治体における教員給与の実態調査(国内訪問調査)を行い、現状の日本の教職員給与の実態を把握することを目標にしていた。「文献レビュー調査」はほとんど研究計画通り実施することができた。一方で、「47都道府県の教員給与の実態調査」と「国内先進自治体調査」は当初の研究計画とは少し異なる枠組みでの調査実施となった。特に、国内先進自治体への訪問調査は議会等の決定受けた内容を調査するため2月・3月に実施予定であったが、「新型コロナウイルス」による出張の取り止めから実施できていない。一方で、20政令指定都市に対する電話でのインタビュー調査と47都道府県と20政令指定都市に教職員給与のアンケート調査を2019年度実施した。このアンケート調査により2019年度予定していたデータ収集については、ほとんど予定通りの作業が実施できている。このように2019年度は、義務教育諸学校の教職員給与に焦点を当て、政令指定都市に教員給与費の負担権限が委譲される実態について検討を行うことを中心に分析をおこなった。同時に、教員給与と比較する形で、義務教育における学校事務職員の給与実態や勤務条件のアンケート調査も行っている。 これまでの教員給与費の調査を通じて、調査対象である先進自治体については、2020年度に更なる調査を実施する予定である。同時に、2019年度のアンケート調査の詳細な分析を通して、新たな知見を提唱する予定である。 また、研究結果の報告については2019年度に日本教育行政学会と関西教育行政学会において、政令指定都市に権限が移譲された際の教員給与の課題と、教員以外の職との比較の視点から学校事務職員の給与や労働条件についての発表を行った。 以上の点から、2019年度の研究の進捗状況は順調に実施できているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究実績をふまえ、2020年度においては次のように研究を推進する予定である。 2020年度は、「自治体における教員給与政策の実態」と「他職種から見た教員給与政策」に焦点を当てて研究を行う。具体的には(1)これまでの教員給与政策研究を「教育の機会均等」の視点で整理を行う(先行研究調査)。(2)2019年度に引き続き、47都道府県と20政令指定都市における教員給与の資料を収集したうえで、分析枠組みに合わせた検証を行う。(3)各自治体における教員給与の実態として、①国内実態調査(2019年度の継続として更なるインタビュー調査や自治体訪問調査を予定)、②外部組織からの圧力(首長部局や企業からの影響 )の検証、③個人の昇給と諸手当について整理を行う。これらの視点をもとに、 2021年度は「教員給与政策の展望と課題」を明示することを想定している。 これらの研究結果の視点で明らかになったことと、これまでの国・都道府県の義務教育の経費負担関係を照らし合わせることによって、教員給与政策の全体像を示すことが可能となると考えている。 2020年度に調査予定している訪問調査が行えない場合は、別の都道府県での調査や2020年度版のアンケート調査を実施することも想定している。また、「新型コロナウイルス」等の影響により、訪問調査やアンケート調査が実施できない場合は、2020年度は2019年度実施したアンケート調査の分析と先行研究調査、理論枠組み構築に焦点を当てて研究を遂行する予定である。また、2020年度の研究の公表については、上記の研究結果を学会発表または論文発表を行い、教育行財政研究者間での建設的な議論を行い、さらなる教育財政研究の発展に寄与することを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度予算については、調査者の大学本務の時間が空くと同時に、調査対象機関・団体も年度内の業務をほぼ執行しているであろう2月後半から3月にかけて調査を予定していた。しかし、「新型コロナウイルス」感染症蔓延防止により調査受け入れ困難・出張が不可能となり、訪問調査を中止としたため、未執行が生じた。2020年度において調査可能となり次第執行予定である。
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