令和4年度は、日本の近代学校成立期にアメリカ・イギリスから導入された学校管理論に着目し、①校則の原理原則がいかに論じられたのか、②生徒の懲戒方法がいかに論じられたのかを分析し、論文を執筆した。①については、アメリカでは校則を法に見立て生徒の権利義務を定める考え方が見られたのに対して、イギリスでは生徒の権利義務ではなく、教授の遂行に必要なルールのみを校則にすべきだという議論が見られた。②については、米国の懲戒論のなかに記された罰の原理や方法を、日本は積極的に受容していたことが明らかとなった。受容したものの一つは、罪刑法定主義的な罰の原理であり、もう一つは集団と個の関わりを利用した罰の方法である。以上を整理した論文を執筆した(業績は備考欄に記述)。 また、業績としてまとめられてはいないが、学校での子どもへの罰がもつ意味を問い直すため、処罰と人間形成、および社会秩序に関わる社会学理論を整理し、分析視点として精緻化することを目指した理論研究を開始した。学校教育と子どもへの罰の関連性についての理論研究は、エミール・デュルケム『道徳教育論』にはじまり、ミシェル・フーコー『監獄の誕生』、バーガー=ルックマン『現実の社会的構成』などで展開されてきた。しかし、これらの視点を整理、統合し、学校における子どもへの罰とは何かを理論的に探究した研究は管見の限り見当たらない。そのため、これらの社会学的理論を体系的に整理し、学校での罰を問い直す必要があると考えられる。この理論研究の成果は、2023年度中に提出予定の博士論文のひとつの章としてまとめる予定である。
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