最終年度の研究業績は以下の三点に集約される。 第一に、かねてより継続していた秋田県内における外国人支援団体の成立・展開を示す歴史資料等をフィールド調査によって収集し、その成果を共編著書所収論文として刊行した。その主な知見として、①1980年代以降に成立した女性ボランティア団体が中心になって行政に政策提言を行うことで、外国人女性に対する日本語支援の制度化が急速に達成されていったこと。さらに、②外国人の子どもに対する教育支援を「特殊教育」の枠内で実施するよう教育委員会に要望し、また学校内では「みんなの先生」という位置取りを選択することによって、バックラッシュの抑制とマイノリティ支援の両立が模索されていたことが明らかになった。 第二に、同じく外国人女性とその子ども視点を念頭に、福島県でのフィールド調査を継続した。具体的には、母子の生存権保障を担う象徴的な場として「母子健康センター」に注目し、その設置過程を解明して共編著書所収論文として公表した。主な知見としては、①財政難が続く自治体で母子の生存権保障はあからさまに軽視されていたものの、②地域青年団や地域婦人会が一体となった「母子健康センター建設運動」が形成されることによって、母子の生存保障が自治体内で重視され母子健康センター設置へと結び付いていることが明らかになった。 第三に、継続していた中国系移民第二世代へのインタビュー調査をオンラインで引き続き実施し、コロナ禍における移民第二世代の被差別経験に焦点をあてた学会発表を行った。限られた事例ではあったものの、中国系移民第二世代の被差別経験は「武漢ウイルス」言説との関連から固有性をもつことが明らかになり、とくに義務教育時代にみられた「パッシング」の対処戦略がコロナ禍において息を吹き返していくことが明らかになった。
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