本研究は、現在子育てにおける公的役割がどのように捉えられているのかという点を、就学前の子育ての費用負担に関する議論に注目することで明らかにするものである。具体的には、幼児教育の無償化に関する政策議論の通時的変化の分析から、これにアプローチした。 2022年度において第一には、昨年度から継続して「幼児教育・保育の無償化」議論において登場した「人づくり」という語に着目し、その社会的関心の推移と「保育」に関連する議論について分析した。1960年代当初「人づくり」という語が登場し、1980年代中頃以降「人づくり」という語は断続的に社会的関心を集めていた。とりわけ、2017年においては「人づくり」に関する記事が集中しているという特徴もあった。1960年代当時には、「人づくり」は教育の刷新充実と技能者養成という側面から謳われていた一方、2017年時点においては、1960年代における「人づくり」の意味内容とは異なり、人材投資をあらわす語として用いられていた。このように教育・保育の充実とは異なる論理のなかで、幼児教育・保育の無償化議論と「人づくり」という語が合流していったことがうかがえた。 第二には、上記の分析結果をふまえ、「人づくり」の議論が登場した1960年代と同時期に議論されていた「義務教育年齢の引き下げ」と幼児教育の無償化議論のつながりについて分析を進めた。1962年予算委員会公聴会を皮切りに、「幼児教育から義務教育の時代に人間がつくられる」という論理から、「小さな子供の教育」の義務制の必要が議論にあがっていた。さらに、1970年代の議論では、幼児教育、とくに幼稚園が「義務教育に準するような実態」になってきていることをふまえ、財政措置の必要性が論じられてきた。「無償化」という重なり合う関心ではあるものの、幼児教育の普及という命題を抱えていた当時と現代における議論の差異がうかがえた。
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