本研究では、道徳発達段階理論とは異なるケア論の立場から「段階(stage)」ではなく「生活(life)」において道徳性をとらえるネル・ノディングズのケアリング論と、ケアリング論との共通性が見出される倉橋惣三の「生活」を主軸に置いた保育思想に着目し、日々の生活における他者とのかかわり合いの中で既にさまざまに立ち現われている乳幼児期の道徳性をとらえる新たな視点を提起することを目的とする。以上の目的を達成するため、(1)倉橋惣三の保育思想とケアリング論の文献検討による思想研究と(2)子ども同士の対人葛藤のエピソード検討の2つの軸をもち、研究を進めた。 研究の結果、以下の3点が見出された。①倉橋の保育思想とケアリング論を視点としたとき、子ども同士の対人葛藤は、自発的な存在として互いを感じ合い共感的にかかわり合おうとするケアリング関係の構築に通じる出来事としてとらえられること。②ここで共感とは個別具体的な他者自身を知ろうとする共感であり、それは倉橋のいう子どもの「心もち」を感じ取ろうとする保育者のまなざしの中で現れていること。③このまなざしはノディングズのいう「確証」と通ずるものであり、その中で子どもたちにおいても他者を共感的に知ろうとケアしケアされるかかわり合いが生活の中で現れていること。以上のことから、道徳原則に基づく善悪判断の発達を促すのではなく、生活におけるケアリング関係の構築という観点から道徳性を考えることの必要性が見出された。最終年度にあたる今年度はこれらの研究成果の報告冊子の作成と配布を行った。
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