本研究は1950~1960年代の月刊保育絵本『ひかりのくに』に着目し、その普及のプロセスを同シリーズをめぐる様々な立場の大人や子どもの社会関係を紐解くことで明らかにしようとするものである。 2023年度は2022年度に引き続き、初期に『ひかりのくに』と『保育』両誌の編集長を務めた豊田次雄の戦前・戦後の活動やこれを通して培われた幼児童謡観や絵本観を跡付ける作業を続行した。このことによって、戦後の月刊保育絵本の出現の背景と保育界への波及状況について明らかにし、論文にまとめた。また、1960年代以降の『ひかりのくに』を含む月刊保育絵本が、児童文学や絵本学、幼児教育学の分野においてどのように語られたのかを明らかにするため、史料を収集し分析作業に着手した。成果を発表する段階にまでは至らなかったが、今後も引き続き研究を続行する予定である。 研究期間全体を通じて、①『ひかりのくに』が戦前における編集長の童謡・童話の創作や実践活動に端を発するものであり、保育者への働きかけなどを通じて保育における絵本の導入や活用に影響を及ぼしうる存在であったこと、②1960年代にかけての教育熱の高まりを背景に、母親を子どもと絵本との有能な媒介者として育成する役割を担ったことの2点について明らかにすることができた。
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