研究実績の概要 |
ASDの疾病機序の解明及び客観的指標による早期診断は世界規模の喫緊課題である。国外で行われた研究では、生後15ヶ月および生後24ヶ月のASD高リスク児と健常児で光点の運動情報のみでヒトの動作を表現したBiological motionに対する注視パターンが異なることが示されている(Klin et al., 2006)。また、ホルモン分泌(特にオキシトシン)とASDの関連性も報告されている。以上より、Biological motionへの注視パターン及びオキシトシンにはASDとの関連性が推察される。加えて、本研究では前向きコホート研究(ASD発症前の調査)を行うことで、上述した2種の客観的指標の発達的変化像とASDの関連性を検証し、ASDの疾病機序を明らかにすることを目的とすると共に、客観的指標による画期的な早期診断方法の開発を目指す。 初年度は、上記の目標を達成するため後述する実験を行った。眼球運動測定実験では、赤外線センサーを用いて視線の動きを記録するシステム(Tobii X2-30 Eye Tracker)を採用し、視覚刺激呈示中の注視パターンを計測した。Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay法によるホルモン濃度測定においては、唾液中オキシトシン濃度を測定するための十分な唾液データが得られなかったため、予定していた注視パターンとの統計分析を行うことができなかった。他方、国外の研究では、オキシトシンより少量で分析可能なホルモン(例えば、テストステロン)とASDの関連性が確認されている(例えば、Ingudomnukul, Baron-Cohen, Wheelwright, and Knickmeryer, 2007)。したがって、今後はオキシトシンのみならずテストステロンも候補ホルモンとして研究を遂行する予定である。
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