研究実績の概要 |
我が国の幼児教育は,環境を通して行なうことを基本としている。幼児の発達は,周囲の環境との相互作用において促進されていく。物理的環境に対する具体的操作の過程が,認識を深めることは確認されている。しかし実際の園生活において,保育室内外の物理的環境と育ちとの関係を詳細に検討した知見は少ない。 本研究は,園環境の中でも中型以上の大きさの積み木を用いた相互行為場面に着目する。本研究が対象とする中型以上の大きさの積み木場面では,操作や場の占有において,他児との相互行為が必要となる場面が多く発生することが想定される。積み木は,幼児教育において,教育的意図を持って設置された最古の保育教材でもある。 また本研究は,4歳児クラス積み木場面を対象とする。4歳児クラスを対象とする理由は,集団での良い在り方を獲得していく時期であり,それまでの自己中心的な行為に対して葛藤と調整を繰り返すとされている。つまり,4歳児積み木場面の展開においては,他児との関係の調整を支える何かしらの環境操作や行為が行われている可能性は高い。実際3歳児に,他児の意図を理解し,それに対して同調したり主張したりといった行為は確認されている(宮田2013,2014)。しかしその後の展開に必要な,情報の整理と役割の取得や演技等の物語生成は,3歳児積み木場面では,多くは保育者が担っているのである(宮田2016)。 よって本研究では,4歳児積み木場面において,積み木の操作とそれに伴う構築物の変化が,どのような発話を促進し,結果場面の継続と展開を支える遊びの物語生成を生成させているかについて,検討を行なっている。 一年を通した参与観察の結果,積み木場面における物語生成には,積み木による場の占有と他の素材の持ち込みを要する可能性が高いことが示された。また4歳児積み木場面の物語生成における調整に,場面の繰り返しが必要である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,園における4歳児の積み木場面に着目し,そこで行われる相互行為を明らかにすることである。研究初年度では,中型木製積み木を有する幼稚園4歳児クラスにおいて,合計70時間の参与観察調査を行っている(期間: 2019年4月~2020年2月:内23日間)。結果,①他児との積極的な相互行為は見られるものの,積み木を構築させていく繰り返しの中で葛藤と調整が行われていくこと②葛藤と調整の媒介に積み木の存在は欠かせないが,積み木が単純な形体であるため,イメージを補う素材を持ち込む必要が生じること③中型積み木の操作は4歳児後半には一人で行えるものの,積み木は,その大きさや保育室内での占有率の高さから他児の目に触れやすく,デザインの模倣によるイメージの伝達が生じやすいことの3点が観察された。 また,本研究では,4歳児積み木場面における保育者の役割についても検討を行っている。その結果,積み木場面における保育者の役割は,時期によって異なっていた。4歳児クラスでの保育の始めは,保育者の援助の視点は積み木の操作にあった。中型木製積み木は,崩れると衝撃が大きい等,安全面に気を配る必要がある。特に,構築物が不安定である場合などは,崩落などの様々な危険が生じる可能性は高まる。よって,積み木の持ち方,組み方,積み上げた高さ,仕舞い方などに対する教示が多く示されていた。中期になると,積み木の操作に対する教示は少なくなったが,依然として高さや構築物の上に乗る時などに対する教示は行われていた。また,積み木場面に持ちこまれる素材に対する提案や提供などの援助も多くみられた。中期から後期にかけては,積み木の操作だけでなく,子ども同士の相互行為において発生する葛藤場面への仲介が行われるようになっていた。 上記の知見と課題を得ることができている。
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