最終年度前半は、コロナ禍の影響で計画通りに進捗しなかった調査を実施した。具体的には、インクルーシブな保育環境の構成を目指している保育施設の管理職へのインタビュー調査を実施した。後半は、収集したデータの整理・分析を行ったが、年度内に研究成果を発表することはできず、現在報告の準備を行っている。 研究期間全体を通じての成果として、先行報告のレビューを通して、国内の保育現場におけるインクルーシブ概念が、主に障害児のインクルージョンを想定して展開してきた点が明らかになった。海外におけるインクルーシブ保育が対象としている言語的・文化的マイノリティや性的マイノリティの子どもたちをその対象から暗黙裡に除外している点で、相対的に対象が限定された研究の文脈が形成されている。 また、研究主題であった「インクルーシブに前向きな態度の形成条件」については、国内の保育現場における調査を通して、保育者本人の信念といった属人的な要因ではなく、職場の人的リソースや園が掲げる保育理念などの、環境要因が強く影響しているのではないかという仮説が得られた。 インクルーシブな環境を目指すある保育園の事例では、発達障害がある子どもの障害をケアしつつ、ADHDの子どもの「多動性」を、「いろんなことに気が付く」特性と肯定的に読み替え、子ども像を刷新する子ども理解の実践を目の当たりにすることができた。ややもすると定型発達児というマジョリティあるいは、メインストリームに、障害児を適応させようとする実践や、同空間に包摂しつつも特別なケアを怠る「ダンピング」に陥りかねない、インクルーシブ保育に関する運用上の陥穽を回避するための実践的な知見が得られた。 こうした保育者のまなざしは各園の保育に対する理念を反映していると考えられ、組織文化や組織学習といった領域に着目することの有用性が示唆された。
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