研究課題/領域番号 |
19K14203
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中川 篤 広島大学, 外国語教育研究センター, 助教 (90835498)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 関係性文化理論 / 関係性レジリエンス / 当事者研究 |
研究実績の概要 |
世界中で教員の離職が深刻な問題となっているが,特に日本では長期化する傾向の強い,精神疾患を原因とする休職が非常に多いことが知られている。このような現状の背景には,教員が精神的負荷の高い感情労働であることに加え,保護者対応や報告書の増加などをはじめとする社会的な変化が原因として存在していると考えられる。この状況は一朝一夕に解決されうるものではなく,これからの時代に生きる教員は,こうした問題と上手くつきあっていく方法を身につけなければならない。 このような状況において,教員に必要とされるのが逆境を糧に成長する力「レジリエンス」であり,なかでも他者との関係性の構築や発展を通じて共同体として育まれる「関係性レジリエンス」である。本研究課題は,教員の関係性レジリエンスを高める取り組みとして,精神福祉分野の「当事者研究」という共同体を軸とする対話的手法を用いて,教員の持つ解決困難な問題に共同体として対処する方法を理論的に探究するものである。 昨年度は,当事者研究が精神福祉分野においてめざましい成果を上げているにもかかわらず,なぜそのような成果が上がっているかについて理論的な説明がなされているとは言い難いという点に着目し,文献調査を中心に,関係性レジリエンスとその理論である関係性文化理論の見地から当事者研究を解釈し,今年度以降のモデル作成に向けた理論的基盤を整理した。この結果,当事者研究は,関係性を重視することを共同体の文化として定着させていることにより,責任を語り手個人に還元せず,語り手と聞き手を包含している社会の条件を問い直して「私たち」には何ができうるのかという「私たちの物語」を生み出すコミュニケーションを可能にしていることが明らかになった。関係性文化理論により,当事者研究で示されているようなコミュニケーションは,その理論化を一歩進めたといえるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画書に記されている通り,初年度は当事者研究と関係性文化理論ならびに関係性レジリエンスを結びつけることを目的に文献研究を進め,論文の公刊まで至ったため,おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(2020年度)は教員の共同体で当事者研究を行う際の留意点に関して理論的探求を行うとともに,英語科教員に当事者研究を紹介し,実施に伴う困難は何かを検討することで「英語科教員のための当事者研究」のモデルを作成する。21年度には作成したモデルを用いて英語科教員に対し講習を行い,実際に経験させたあとで,それぞれの勤務校で当事者研究を行う際の困難は何かを検討し,その結果を論文にまとめる。22年度には4年間の総括を行い,アメリカ教師研究学会で研究発表を行う。また,昨今のコロナ等を鑑み,研究協力者と直接会うことは困難であるため,テレビ通話等での聞き取り調査を積極的に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は台風で中止になった学会がふたつあり,それに際して宿泊費,移動費,インタビュー等での支出がなくなったため,旅費や人件費に余剰金が生まれた。今年度もまたコロナ禍で学会等が中止になり,また対面での研究協力もお願いできないため,旅費に余剰が生じることが予想される。そのため,遠隔でのインタビューを行うためのiPad等の物品費に充てる予定である。
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