研究課題/領域番号 |
19K14205
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
斉藤 雅洋 高知大学, 教育研究部総合科学系地域協働教育学部門, 助教 (60759330)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ESD(持続可能な開発のための教育) / 持続可能な地域づくり / 自己と社会の変容 / インフォーマル教育 / 砂浜美術館 |
研究実績の概要 |
ESD(持続可能な開発のための教育)が目指すのは自己と社会の変容である。本研究の目的は地域の持続可能性を揺るがす「過疎」「中山間」「限界集落」と言われる問題に立ち向かっている地域づくりの事例に着目し、過疎化が進む地域やそこに生活する人々の意識や価値観、行動の変容をもたらす学習活動・教育実践を内発的なESDと捉え直し、その創造と展開の論理を明らかにすることである。 2019年度は高知県黒潮町のまちづくりの過程追跡を行い、持続可能な地域への変容プロセスの分析を試みた。黒潮町における「砂浜美術館」のまちづくりの30年史を3つの時期に区分し、文献資料や社会調査によって、どのような社会的・経済的な背景要因から、どのような学習活動が創造され、展開されたのかを整理した。その結果、次のような地域の変容プロセスやそれを支えた学習活動が仮説的に浮き彫りとなった。 第1期(1989~2002年)は、ハード中心の地域開発から内発的な地域振興への転換をめざし、地域振興(地域活性化)に対する考え方をつくる学習が行われた。第2期(2003~2010年)は、持続可能な観光や特産品のブランド化がめざされ、「砂浜美術館」というコンセプトの下に始めた種々の活動・事業の持続可能性をつくるための探索が行われた。第3期(2011~2019年)は東日本大震災を機に加速した南海トラフ地震対策において、巨大防潮堤の建設を選択せず、海との付き合い方を考える学習を推進している。 このように黒潮町における「砂浜美術館」のまちづくりは、持続可能性をめぐる価値が積み重なり、活動や事業を継続するなかで、地域の持続可能性を創造し、まちづくりを再方向付けするための変革的なインフォーマルな学習・教育として展開してきたことが見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、地域づくりの関係者への生活史調査によって、どのような学習活動が地域の持続可能性に対する理解を深め、個人の意識や価値観、行動の変容を引き起こし、さらには地域の変容を創り出しているのかを分析する計画であった。しかし、予備的な調査を行ったところ、調査協力者の記憶に頼りすぎたため、個人の学習活動の経験と意識や価値観、行動の変容との関係を十分に捉えることができなかった。こうした個人から自己と地域の変容を捉えようとするアプローチは課題に直面したため、研究手法を再考し、地域づくりの過程をインタビュー調査だけではなく、種々の文献資料を用いながら捉えた上で、個人の変容を引き起こした学習活動を分析していくというアプローチに変更することにした。こうした研究手法の変更によって、当初計画よりは研究の進捗にやや遅れが生じたが、研究方法に地域社会論的なまちづくりの過程追跡が加わったことで、今後、生活史調査のみで実施した場合よりも重厚な成果が見込まれると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、地域づくりにおけるESDの有効性を広げていくために、ESDの提唱以前から取り組まれている持続可能な地域づくりの事例研究を通して、地域やそこで生活する人々の学習活動や教育実践の創造と展開の論理を明らかにすることを目的としている。 2019年度は、地域づくりにおける内発的なESDとして、高知県黒潮町における「砂浜美術館」のまちづくりに注目した。黒潮町のまちづくりの展開過程を分析したところ、地域を持続可能な開発へと再方向付けするための変革的なインフォーマルな学習・教育としての展開が見えてきた。今後は、このことを学習者の視点から検証していくことが課題である。 他方で、地域づくりにおける内発的なESDに関する他の事例の分析を進めていくことも今後の課題である。その際、ESDが提唱される以前から取り組まれている地域づくりの事例が計画当初からのターゲットであるが、それに加えてSDGsの取組みを積極的に進めている事例を優先的に見ていきたいと考えている。すなわち、2020年度以降は、地域づくりにおける内発的なESDの創造と展開の論理を明らかにするとともに、ローカルSDGsの達成に貢献する地域ESDのあり方についても検討していきたい。こうした研究の推進方策により、SDGs時代における地域ESD実践のさらなる発展に寄与するという研究成果の波及効果が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は2つある。第1は、「現在までの進捗状況」で説明したとおり、研究手法の変更により、実施予定の調査が滞り、そのための経費の一部が未執行だったためである。地域づくりの関係者への生活史調査を進めるにあたり、予備的な調査を行ったところ、研究目的の達成に近づくことができないことに気づいた。そのため、調査計画を見直し、調査計画の一部を変更することとした。使用額に変更が生じたのは、このためである。 第2は、新型コロナウイルス感染症拡大防止策の影響により、3月に参加を予定していた学会や研究会がすべて中止となり、そのために確保しておいた旅費が未執行に終わったためである。 2020年度の使用計画は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための対策状況によるが、調査の巻き返しを図り、県内外への調査回数を増やしていくことや、2019年度と同様に学会や研究会へ精力的に参加・発表することを計画しているので、当初の支出計画通りの経費の使用が見込まれる。
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