本研究は、体育科教育における戦術・運動技術に関する認識形成過程の理論モデルを構築していくことを目的とする。最終年度となる本年度においては、これまで解明してきた戦術・運動技術の認識対象に関する階層的構造モデルをもとに、授業実践への適用可能性を向上させるために、認識形成過程の理論モデルを構築した。理論モデルを検討する際には、体育実践記録や体育授業の分析を実施し、実際の学習活動との関連性を確認した。構築した理論モデルにおいては、次のような特徴をもたせている。(1)課題・方法・実態の3つの認識対象の相互関係を明確にした。(2)実態を課題に関する実態と方法に関する実態および成功失敗とその原因の4つの要素に区別した。(3)課題から方法、方法から実態、実態から課題・方法という関連づけにおいては、何らかの思考スキルの活用による修正・強化がされていることを明示した。(4)3つの認識は相互に関連づけられながら学習の進行とともに豊かになっていくことを明示した。(5)他者との交流や調査・実験といった教師の指導行為との関係を明示した。認識対象間の関連性や教師の指導行為との関係をもたせることで、実際の指導場面に適用できる可能性を向上させられた。本研究で構築した認識形成過程の理論モデルは、体育授業における認識形成を促進する課題解決学習の指導プロセスを構想する上で、有効なモデルとなるであろう。今後は、理論モデルと関連づけて、具体的な学習指導方法のあり方について提案していくことが課題となる。
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