研究課題/領域番号 |
19K14217
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松本 朱実 近畿大学, 生物理工学部, 非常勤講師 (40836566)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動物園教育 / 能動的学び / プログラムデザイン / 質的な評価 / 持続可能性教育 / 学習論 / 対話 / 学社連携 |
研究実績の概要 |
2019年度からの、複数の動物園施設との共同研究の進捗における状況や結果を整理、分析し、状況を評価した。この成果を国内外の環境教育、科学教育、理科教育、生物教育、博物館関係の多くの学会大会(オンライン)にて、口頭発表をおこなった。このうち、3件については、学術論文を投稿し、1篇は掲載(博物館雑誌研究ノート)、もう2編(環境教育、IZEjournal)は査読審査中である。学会大会での発表や論文投稿により、共同研究の意味づけや成果を職員と検討した。 2020年度から盛岡市動物公園と新たに共同研究の締結を結び、地元の野生動物保全をテーマにしたプログラム「ツキノワグマってどんなクマ?」のデザインと評価をおこなった。新型コロナ感染症が広がる中、予防の対策をとり、現地での同行調査をおこなうことができた。 オンラインを活用した、本研究の課題に対応したプログラムデザインと評価を検討した。よこはま動物園での「ズーラシアスクール」は、対面とオンラインを組み合わせ、野生動物保全を自分と関わらせて考え学ぶ方策を検討した。野毛山動物園では、動物に触れない観察プログラムや、小学校と連携した生活科の授業プログラムを学校の教師、動物園職員と協働で検討した。のんほい動物園では、総合学習と関わらせた学校で飼育されるウサギのしあわせを考えるプログラムを検討した。 いずれの実践研究も、本研究の課題である、「能動的な生命概念構築」「持続可能性教育」を具現化させるプログラムのデザインを、職員と協働で構築してきた。この共同研究を通じて、学習者のみならず、職員や職場の意欲向上が、職員向けの評価で示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今まで蓄積された、実践研究における学習者のデータ(記述や談話などの記録)を、動物園担当職員と共に、テキスト化して整理し、分析をおこないつつある。質的な評価研究は、具体的なデータやその時におきた現象を細かく読み取り、理論を構築する手法をとるため、評価に時間を要している。職員や学校の教師などと、プログラムのねらい(目標)を再確認して、関係者が汎用的に評価分析をおこなう視点(評価規準や評価基準:ルーブリック)の構築を試みている。持続可能性教育の枠組みとして、SDGsの17の目標・課題や、ESDのキーコンピテンシーを視点に入れて、デザインや評価を検討している。SDGsの視点を入れることで、今までの動物園教育の取組みを、さらに広い分野や視点で展開させる可能性がある。 新型コロナウイルス感染症が収まらな中、ZOOMなどによるオンラインを活用したプログラムデザインを、新たなツールとして開発している。オンラインにおいても、対話を重視し、問題解決的展開とパフォーマンスアセスメントを軸とした枠組みを援用して、職員が主導でデザインを行う展開になってきている。 日本ミュージアム・マネジメント学会大会での発表要旨論文がサイトで掲載予定である。学術論文の執筆と投稿をさらに計画している。また、台北動物園から依頼を受け、日本の動物園におけるSDGs推進の取組みを、聞き取り調査し、台北ZOOマガジンに寄稿する予定である。世界動物園水族館協会が打ち出した保全教育戦略の理論とも関わらせて、デザインの枠組みと評価を精査している。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題である、「学習者の能動的な生命概念構築を支援する持続可能性に向けた動物園教育のデザイン」の枠組みの構築と実践における評価の成果を、3年目の集大成としてつぎの3つの方策で形にして発信する計画である。まず、昨年度に発表した学会への論文投稿を試み、今年度も各学会大会への発表も継続しておこなう。つぎに、共同研究を実施した9施設におけるプログラムについて、共同研究者間でその内容や成果を交換し合い、関係者にも参考にしてもらうシンポジウムや勉強会を開催する。シンポジウムや勉強会では、「ふれあい」「学校教育との連携」「保全教育」などのテーマを設けて深く考え合う機会もつくる。そして、本研究の実践研究の成果を、報告書(冊子)にまとめて記録として残す。 デザインの枠組みについては、学習者の能動的な学びを支援する、社会構成主義的な教授・学習論の視点と、ユネスコが示したSDGsに向けたESDの視点、そして世界動物園水族館協会(WAZA)と国際動物園教育者会議(IZE)が2020年に提示した世界動物園水族館保全教育戦略の視点を、精査して構築する。実践における質的な評価方法については、関係者が協働で評定できるルーブリックの構築や、複数の評価方法を組み合わせて総合的に学びを読み取る手法を開発していく。また、インクルーシブ教育や、動物園を契機とした地域のネットワーク構築を目指した学習活動の拡充に向けたデザインも構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張予定だった旅費などの経費が、新型コロナ感染症状況による緊急事態宣言発出に伴い、急遽、オンラインでの実践研究や学会発表への移行となったなどの理由による。次年度において、国内各地の動物園における本課題の実践研究にかかる費用(主に旅費、学会大会発表参加費、論文投稿費など)に活用させていただくとともに、研究成果の報告書や発信機会に使用させていただく。
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