本研究では,教員養成期から初任期にかけての初等中等社会科教師の専門性開発のあり方に示唆を得るため,①米国における「rationale」研究の到達点の解明,②「理論的根拠」を基盤にした教師教育実践のデザインと試行,③教師教育者のセルフスタディのデザインと試行,の3つの研究を3ヶ年計画で推進していく計画であった。COVID-19の影響により研究機関を1年延長し,4年目にあたる令和4年度は,これらのうち主として③に関連する研究を進めた。 第一に,広島大学教育ヴィジョン研究センターの協力を得て,履修証明プログラム「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」を共同運営し,受講者とともにセルフスタディを実施した。研究を通して,学校内において研究や研修を主導する立場の教師(研究・研修主任)が直面する葛藤の一端を明らかにするとともに,学校基盤の教師教育者に必要な支援に関する示唆を得ることができた。また,2021年度の当該講座の受講者への聞き取り調査を通して,日本における教師教育者とその志望者がどのような専門性開発を期待しているのかを明らかにした。 第二に,社会科教員の力量形成を担う教師教育者の実態調査のため,関東地方に在住の入職2~3年目の研修担当指導主事5名を対象にしたインタビューを中心とした質的調査を実施した。本研究を通して,他国の先行研究事例と同じく,わが国のinstitution-basedの教師教育者においても,教師から教師教育者への移行が困難である状況が浮き彫りとなった。 第三に,かつて実施した,社会科教員養成に携わる当事者である研究代表者を含む5名のセルフスタディプロジェクトの成果を論文化した。当該プロジェクトを通して,初等・中等学校における教師経験に乏しい教師教育者が所属機関を越えてどのように協働し,自身の実践を構想・省察・改善すればよいのかを提起した。
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