本研究の目的は、音楽教育における多文化共生に向けた取組みの日独比較を通して、我が国における音楽教育の理念や教授法、教育実践のあり方について示唆を得ることである。本年度は、これまでに調査したドイツ・ハンブルク州の器楽教育プロジェクト “Jedem Kind ein Instrument” に加え、ドイツ北東部のJeKi に類似する音楽教育プロジェクトにも着目し、その活動内容や運用方法について調査を行い多様な主体によって展開される実践事例を収集した。なお、最終年度に予定していた海外調査は、新型コロナウイルス対策による渡航制限のため、現地の関係機関や当該プロジェクトに携わる音楽講師とのリモートインタビューや文献調査に切り替えて研究を進めた。 日本国内における多文化共生を目指した取組みについては、滋賀県内の外国籍の児童生徒が多い地域を対象に行政職員や学校教員、民間団体のスタッフへのインタビューを行い、学習支援体制や学校内外における音楽活動の現状を調査した。また、外国籍の子どもたちの実態を把握するため、滋賀県内の日本語指導教室を有する小学校の授業視察を行い、担当教員と意見交換を行うことで実践研究に向けた教材開発の視点を整理した。コロナ禍のため、予定していた小学校での授業実践は実施できなかったが、長浜市民国際交流協会の日本語教室に通う子どもたちを対象に音楽を通じたワークショップを学生とともに企画した。そして、これまでに調査研究したドイツと日本の事例及び先行研究から、多文化共生を念頭に置いた教育実践の形態を類型化した。その類型を把握した上で日独の教育内容及びシステムの共通点・相違点を分析し、公教育で子どもたちに文化的活動を経験させることの意義を明らかにするとともに、理論的視点から音楽を通じた多文化共生教育の方向性を提言した。
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