研究課題/領域番号 |
19K14224
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研究機関 | 独立行政法人教職員支援機構(次世代教育推進センター調査企画課) |
研究代表者 |
吉田 尚史 独立行政法人教職員支援機構(次世代教育推進センター調査企画課), 次世代教育推進センター, 研修特別研究員 (80836502)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 防災教育 / カリキュラム / 災害経験の継承 / 学校と地域の関係 / 教育長 |
研究実績の概要 |
福島県双葉郡の教育長たちは、希有の災害によって主体的なカリキュラム編成を担える状態になかった学校を支援するために、自治体を超えた協働組織を形成して各学校の教育目標・内容・方法の基準である「ふるさと創造学」を策定した。双葉郡の全町村立学校では、この基準のもとで、各学校が独自のカリキュラムを編成・実施している。浪江小学校における「ふるさとなみえ科」は、その策定過程において参考事例とされた。 そこで2020年度は、「ふるさと創造学」の策定過程とそこでの教育長たちの認識変容を検討した。当初の教育長たちは、自分たちの立場や環境の課題から出発する目の前の議論に終始していた。しかし、議論を重ねる中で、多様な視点から学校教育の復興を考える意義を理解するとともに、地域社会からの要請として「災害経験の継承」を認識して学校教育の課題として受けとめた。その中で教育長たちは、文化遺産の伝達を重視した学校教育によって安全神話への加担と思考停止の大人を生み出してきたことに対して反省と悔恨を抱き、教師のあり方を問い直す必要性を認識したのである。 従来、学校教育における災害経験からの学びと共有は、防災教育の研究や実践によって知見が蓄積されてきた。そこでは、防災の専門家の知見にもとづいて、災害から自らの命を守り生き延びるための知識・技術、とりわけ発災時に行動できる主体性の育成が目指されてきた。しかし、教育長たちが、文化遺産の伝達によって社会の脆弱性が継承されることに危機意識を抱いて「ふるさと創造学」を策定したことを踏まえると、従来の防災教育の限界が示唆される。福島県双葉郡のカリキュラム改革においては、単なる災害の事実や教訓の伝達を超えた新たな「災害経験の継承」のあり方が示されたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度に実施した浪江小学校における「ふるさとなみえ科」に関する調査から、個別学校のみに着目して被災校における災害経験からの学びと共有のメカニズムを解明する限界が示唆された。そこで、2020年度以降の研究対象を、福島県双葉郡の全町村立学校が取り組んでいる「ふるさと創造学」と津波被災地である岩手県大槌町とした。2020年度当初の予定では、「ふるさと創造学」の策定・展開過程の解明を目的とした教育長等への聞き取り調査と資料収集、被災校のカリキュラム編成の実態の解明を目的とした双葉郡の公立学校の教職員への聞き取り調査と資料収集を予定していた。また、岩手県大槌町の教育行政関係者や公立学校の教職員への聞き取り調査及び資料収集に着手する予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大によるさまざまな制限によって、予定していた福島県双葉郡の公立学校と岩手県大槌町を対象とした調査の実施を延期せざるを得ない状況になった。 他方で、「ふるさと創造学」の策定・展開過程の解明を目的とした調査の一部を実施することができた。特に、「ふるさと創造学」の策定過程で中心的な役割を果たしていた元教育長や元文部科学省担当者への聞き取り調査を実施することができた。その成果は、日本教育経営学会第60回大会で発表し、論文化を進めた。また、2020年度後半には、「福島県教育復興ビジョン推進協議会」によるカリキュラム編成支援の内実を解明することを目的とした関係者への聞き取り調査や双葉郡の公立学校の事例選定を進めることができた。それらについては、継続して調査を進め、2021年度以降に論文化を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、福島県双葉郡の2つの公立学校の教職員に対して聞き取り調査及び資料収集を進める。また、「福島県教育復興ビジョン推進協議会」によるカリキュラム編成支援の内実を解明するために、関係者への聞き取り調査を進める。新型コロナウイルス感染拡大によるさまざまな制限により、思うような調査が実施できない状況だが、調査協力者との関係構築を図りつつ、オンライン等を活用して調査を実施する予定である。2021年度の調査で得られた知見の一部は、日本教育学会第80回大会での発表を予定している。また、適宜論文化を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、当事者からの資料収集や聞き取り調査を主な研究方法としている。そのため、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、聞き取り調査と資料収集が制限された。そのため、計画的に経費を使い切ることができなかった。2021年度は、2020年度に予定していた調査を実施する予定である。主な使途としては、文字起こしの業者委託や旅費等を予定している。
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