本研究の目的は、被災校における災害経験からの学びと共有のメカニズムを明らかにすることである。そのために、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故(以下、震災)によって全町村避難を余儀なくされた福島県双葉郡におけるカリキュラム改革の解明を試みた。 本研究を通じた主な研究成果は、震災後に差別や分断の中で生活を余儀なくされた福島県双葉郡の児童生徒に対して、多様な学校教育関係者が新たなカリキュラムを生成しようと試行錯誤したプロセスを解明したことである。具体的には、第一に、震災後の福島県双葉郡における「ふるさと創造学」の策定・展開過程を明らかにしたことである。震災後の福島県双葉郡の教育長たちは、自治体を超えた協働組織を形成して、教育の目標・内容・方法の基準(「福島県双葉郡教育復興ビジョン」及び「ふるさと創造学」)を策定した。その過程で教育長たちは、従来の学校教育が文化遺産の伝達によって安全神話の加担と思考停止の大人を生み出してきたことへの反省と悔恨を抱いていた。だが、学校現場は、目の前の課題に追われ「普通の学校」を指向していた。自治体を超えた協働組織は、この状況に対して、学校現場の教職員が自走する仕組みづくりと双葉郡全体でカリキュラム改革に取り組む意義共有に取り組んだ。第二は、全町村避難後の浪江町立浪江小学校と大熊町立学校、本校舎帰還後の楢葉町立楢葉中学校における新たなカリキュラムの編成過程を明らかにしたことである。「普通の学校」を指向する教職員が災害経験を反映した新たなカリキュラムの生成に取り組んだ要因として、学校内外の協働を重視する管理職やミドルリーダー等による働きかけ等があげられた。 以上の研究成果は、学校教育の復興における組織的・経営的条件の重要性を指摘しており、災害による未曾有の被害を受けたもしくは将来同様の経験をする自治体や学校に対して重要な示唆を提供するものである。
|