最終年度では,技術科熟達教師の技術科教育に対する信念や指針を明らかにし,これらを教員養成課程の学生の授業実践における困り感と関連づけた。研究成果を教員養成課程の教科教育法に還元することで,学生の授業デザインにおけるアイデアの創出,授業実施中の意思決定の枠組み,授業省察中の他者との対話の共通言語として活用することができる。 研究全体を通して,教員養成課程で学生の実践的指導力に寄与する授業参観法,模擬授業の省察方法について確立することができた。主な方法として,授業記録時に一般的に用いられるビデオカメラに加えて,ウェアラブルカメラを用いることにより,授業中の教師,生徒,参観者といった様々な立場からの「みえ」を記録した。 ウェアラブルカメラの映像を活用することで,教師は授業中の生徒の表情やつぶやきを回顧することにより,その場面の教師自身の心情と思考の振り返り,また,生徒の心情と思考の推測を促すことができた。生徒にとっては,各場面で自分が何を見ていたのか,近くの生徒と何を話していたのかを容易に思い出すことができ,こういった自身の学びの履歴から授業時の心情と思考を振り返ることができる。参観者にとっては,教師の意図と生徒の実際のズレを感じた場面において,その根拠となる生徒の学びの姿について自身の視点から教師の行為と生徒の反応を思い出すことができる。このため,授業者である教師に対して,授業の質問や助言を教師の教授行為および生徒の学びの姿を基に行うことができる。 本研究での授業研究方法は,教師,生徒,参観者が具体的な場面の共通認識をもって授業について語り合える。このため,三者が授業中に感じたことや考えたことを,自身の想起とともに関わった人の声や表情,物理的環境,同じ場面に対する他者のみえを基に多角的・多面的に捉えることができる。
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