研究課題
本研究の目的は,学習者が教授的介入のもとで数学の「文化的な美」を感得する過程を詳細に記述・分析し,その種の美の感得を促進する教授方法を解明することであった。当初計画では,研究開始前までの研究成果に基づいて,数学の美を①美術などの対象にも共通する「普遍的な美」と②対象や文化,時代などに依存する「文化的な美」に大別した上で,後者の美を反映している典型として「数学的証明」「数学的定義(条件)」「数学的体系」といった数学的対象に焦点化した研究を展開することとしていた。それに対して2020年度までの検討によって,数学の「文化的な美」を特徴づける簡潔性などの数学的価値は数学の「普遍的な美」をも同様に特徴づけることや,学習者の学習経験を踏まえると,特に「数学的定義(条件)」と「数学的体系」とを教授学習の場面で独立に扱うことは不自然な考察対象を押し付ける恐れがあることがわかった。以上を踏まえ,2021年度には,大学生を対象とした「数学的定義(条件)」と「数学的体系」の双方に関連する調査研究と,中学生を対象とした「数学的証明」に関連する調査研究を展開した。前者では,考察対象とする体系全体を構成する「形式」の同定が困難である場合には,体系の一部を図表現などを用いて構造的に捉えることが有益であること,「形式」として機能する数学的関係(対称性や双対性など)自体の学習経験が「文化的な美」の感得において重要な役割を担うことが示唆された。後者では,形式的証明と非形式的な証明の比較を学習に組み込むことが,暗黙化された数学的証明の「文化的な美」の感得の促進に寄与することが示唆された。この後者の調査研究はCovid-19の影響で調査の実施が遅れたため,現在投稿準備中である。数学の美を定式化し,その感得の促進方法を具体的に提示したことは,これまで主観的な実践に陥りがちであったこの教育活動に礎を与えるものである。
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宮城教育大学紀要
巻: 56 ページ: 29~40
Proceedings of the 44th Conference of the International Group for the Psychology of Mathematics Education
巻: 3 ページ: 24~31
日本教材学会第33回研究発表大会研究発表要旨集
巻: - ページ: 100~103
日本数学教育学会第54回秋期研究大会発表集録
巻: - ページ: 305~308