本研究は,日本の中等学校の社会科教師(①現職教師と②教師志望学生)の論争問題学習の捉え方を把握することを目的としていた。具体的には次の3点を行った。 第1は、教師志望学生に関する調査の実施と分析結果の公表である。2019年度にはアクションリサーチや小規模な質的調査を行った。2020年度・2021年度は、先行研究を踏まえ、質問紙を作成し、結果を検討した。続いて希望者に対してのインタビュー調査を実施し、その結果を学会発表・セミナーで発表した。分析の中で、学生の実施への不安は社会科外の状況(例:生徒の人間関係への影響)が大きい。そのため、促進するには、論争問題学習が社会科以外の状況に与える影響について調べることが重要であることが分かった。 第2は、日本全国の現職の公民教師に関する調査の実施と分析結果の公表である。質問紙を、全国の高校に配布し、1000の回答結果を得ることができた。分析結果としては、多くの高校教師は論争問題学習の重要性は認識していることが分かった。その一方で、大半の教師は実施していないことが見えてきた。重要性と実施状態のギャップの理由については、今後も継続的に分析を行う。 第3は、トピックを絞った現職教員に対する質的調査の実施結果の公表である。2番目の調査研究は計量的な一般的傾向を志向するのに対し、こちらは文脈に即したケーススタディでの調査とすることにした。その結果、論争問題学習を進めていくには、教師が実践の重要性を言語化できること、またリスクがあるという点からも単独での実施を促すのではなく、専門家集団とのネットワークを作り、進めていくことが重要であることが明らかになった。
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