研究実績の概要 |
本研究では,特別な教育的支援を必要とする子どもの社会性を育成する「社会性と情動の学習(SEL:social and emotional learning)プログラム」の実践的介入効果を検討することであった。 今年度は,昨年度に支援ニーズがあると選定された生徒が在籍する公立高等学校2年生を対象に学級で行うSELプログラム(以下,学級SEL)を実施した。また,当該生徒1名(生徒Z)には,個別のSELプログラム(以下,個別SEL)を実施した。実施内容は,学級SELを全2回,個別SELを全4回実施した。 効果検証として実施前後に,ASSESS(山田・米沢,2010)による自己評定とSDQ(厚生労働省, 2007)による教師評定を行った。 実践の結果,まずASSESSにおいては「生活満足感」「学習的適応」の値の向上と「教師サポート」の値の低下がみられた。生徒Zは昨年度から認知再構成法の援用による適応的な思考を促す学習うな練習をしてきた。今年度は主に主張的なスキルを中心に個別SELを実施した。今年度の結果は,特に昨年度からの認知面への働きかけによって,「生活満足感」と「学習的適応」という比較的個人の適応にポジティブな効果を示した可能性が考えらえる。一方,「教師サポート」については値の低下がみられた。この原因については後述する。次に,SDQにおいてはいずれの項目においても値がやや向上し,望ましくない行動が増加する結果となった。ASSESSにおける「教師サポート」の値の低下とSDQの結果については,事後調査前に発生した教師との関係悪化が影響したと考えられる。 以上の結果から,生徒Z自身の学校適応感には改善の兆しがみられるものの,学校生活場面での行動の変容については十分になされていない可能性がある。今後,SELの学習内容の日常生活への般化・定着への働きかけが課題となる。
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