本年度は、ドイツの政治教育のうち、とくに経済・社会問題ととくに移民の背景との関係を中心に検討を実施した。その主な作業は、以下の3点である。 第1に、現代ドイツにおける移民をテーマとした議論状況を整理した。その際、とくにムスリムをめぐる議論に注目し、まずは日本語文献を検討した。具体的には近藤潤三による一連の移民研究(たとえば『統一ドイツの外国人問題』『移民国としてのドイツ』)を中心に、1990年代から2010年頃までの移民をめぐる議論状況を整理した。 第2に、現代ドイツにおける移民問題のうち、とくにムスリムをめぐる状況を理解する目的から、ムスリム自身のイスラーム理解、ヨーロッパ理解の内容について、検討を進めた。その際、ドイツで暮らすムスリムのなかで主要な位置にあるトルコ系ムスリムのイスラーム理解、あるいはヨーロッパ理解に焦点を当てた。まずは日本語の文献として、内藤正典の研究(『アッラーのヨーロッパ』や『イスラムとヨーロッパ』等)を検討・整理し、主に90年代から2010年代に至るヨーロッパで暮らすムスリムの社会状況および政治・社会理解について論点を確認した。そのうえで、ムスリム自身の著作に注目し、かれらのイスラーム理解、政治・社会理解に注目した。このなかで、著名なイスラーム思想、イスラームと民主主義の関係性を検討しているA.クルの一連の著作を検討した。 第3に、上記の論点、経済・社会問題、移民問題がどのようにドイツの政治教育の中で扱われているのかについて、政治教育論および一部の政治科教科書の内容を点検した。
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