本研究では,データサイエンス時代に向けて,標本データに基づく統計的推論力を捉える枠組みを構築しその実態について明らかにすることで,日本の算数・数学カリキュラムにおける標本データに基づく統計的推論の位置づけについて検証し,その力を伸長するための方策を得ることを目的としている。 本年度は,まず標本データに基づく統計的推論に関する2つの調査(中高生調査,大学生調査)の総括を行った。次に調査結果から特定した標本データに基づく統計的推論の学習上の困難点を「主として標本調査の扱いに関わる困難点」と「主として標本分布の扱いに関わる困難点」に分けて整理し,学習上の困難点を明確にした。次に学習上の困難点の解消に向けて,ニュージーランド・オーストラリア・アメリカの算数・数学カリキュラムにおける標本調査と標本分布の位置づけの特徴を考慮した上で,日本の算数・数学カリキュラムにおける標本調査と標本分布の位置づけの改善の視点から5つの指針を導出した。さらに,これらの指針と関連付けながら,算数・数学の授業における学習指導の改善の視点から3つの指針を導出し,これらの指針に対応する形で学習活動例を示した。そして,標本データに基づく統計的推論力を伸長する上で,これら8つの指針が方策として得られた形で,本研究全体の総括を行い,その成果を論文としてまとめた。 一方,本研究の周辺領域として,国際的な統計教育の学術誌である「Statistics Education Research Journal」の特集号を概観し,データサイエンス教育の動向について整理し,その成果を学会発表した。さらに,日本の小学校段階における標本調査の素地指導の在り方についても検討し,当時の算数教科書の扱い方の特徴についても調査した。
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