研究課題/領域番号 |
19K14254
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研究機関 | 東海大学短期大学部 |
研究代表者 |
佐藤 絵里子 東海大学短期大学部, 東海大学短期大学部, 講師 (60828721)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 造形遊び / 評価モデル / 仮説構築 / 西野範夫 / 見取りの観点 / ネットワーク的表象 / 質的探求 |
研究実績の概要 |
2020年度に実施した研究の成果について、交付申請書に記載した「研究の目的」および「研究実施計画」に則り、記述する。 「研究の目的」は、理論的研究の成果を参照しつつ、「ア. 現代社会を生きるために必要な領域横断的な創造性の評価」と「イ. 芸術特有のものの見方・考え方を尊重した評価」の視点を反映させた新たな評価モデルの仮説を生成し、付随する評価ツールの信頼性・妥当性・実行可能性を検証することであった。2020年度は上記イの視点から、西野範夫の思想に関する理論的研究を行った。また同年には、仮説として、2019年度の成果である「8つのテーマ」とそれに付随する「抽出語」を用いて、「ネットワーク的表象としての『造形遊び』の評価モデル」を提案した。 「研究実施計画」は、①理論的研究と②実践的研究を並行的に行うものであった。①として挙げたKennet R. Beittelの研究に対する文献調査と、創造性概念とその評価方法に関する調査は現在進行中である。さらに、当初予定していなかった重要テーマとして、2020年度に、西野の思想に関する理論的研究を公刊した。 ②については、コロナ禍や「造形遊び」の実践者の少なさを理由とし、研究計画の変更が必要となった。6学年分・30事例のデータ収集という予定を諦め、現実的な数の調査協力者のデータ収集を行う。2019年度には、授業データのトランスクリプトに対する質的分析結果から評価ツールを作る方向性を断念し、先行する「造形遊び」に関する実践的研究に対するテキストマイニングを通して仮説を生成した。2020年度は、この仮説と西野の思想に関する調査結果を参照して、「ネットワーク的表象としての『造形遊び』の評価モデル」を構築した。さらに、この仮説に依拠した「見取りの観点」を用いて、小学校の「造形遊び」の授業の成果を評価し、「見取りの観点」の効用と限界について解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍や「造形遊び」の実践者数が予想を下回ったことを理由として、交付申請書に記載した「研究実施計画」の②実践的研究に含まれる、対面で授業データやインタビュー・データを収集・分析する方法が現実的ではなくなった。そのような方法上の困難に加えて、「造形遊び」の教育的価値の構造化に付随する課題への認識の深まりを要因として、教師用チェックリスト、ルーブリック、ベンチマークを含む「評価ツール」を作成する必然性に対する疑問が生じてきた。そこで、代替的方法を採用し、「評価ツール」に頼らずに評価の営みを支援するための研究計画へと、全体を修正する必要がある。 そのため、交付申請書に記載した「研究実施計画」と、修正後の研究計画に基づく進捗状況を比較して、「進んでいる」「遅れている」などと判断することは困難である。しかし、以下の二つの理由に基づいて、便宜的に「(3)やや遅れている」を選択した。 一つ目の理由は、①理論的研究では、当初、4年間で、Kenneth R. Beittelに関する文献調査、創造性概念と評価方法に関する調査、アイスナーの研究に対する文献調査を行うことを予定していたが、これらは現在進行中あるいは未着手であり、公刊に至っていないためである。反面、「造形遊び」の評価モデルの提案に先立って教育的価値の構造化について論じるために、西野範夫の思想に関する理論的研究を行い、2020年度に出版されたためである。 二つ目の理由は、②実践的研究に関するものである。対面で得られるデータに基づく方法を断念し、代わりに、「造形遊び」の実践的研究に対するテキストマイニング分析を実施した。そして、理論的仮説およびそれに基づく評価モデルを2019年、2020年の論文を通して発表し、概ね順調に進捗しているためである。一方で今後、対面データに依拠しない調査方法を新たに採用する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策について、研究計画の変更点と対応策に触れながら、二点に整理して示す。 一つ目は、②実践的研究のために収集する「造形遊び」の授業データ(=授業記録)の量に関する点である。研究計画調書及び交付申請書では、6学年分×5事例=30事例の記録映像を制作し、授業者と記録映像を視聴しながら、評価の根拠と解釈をインタービューすることを想定していた。しかし、すでに収集した2事例の授業データに基づく分析に基づく研究を除き、今後はコロナ禍の中で現実的な範囲の少数の授業(データ)を収集し、教師へのインタビューは実施しない計画へ変更する。その対応策として、先行する「造形遊び」の評価に関する実践研究を文献収集し、テキストマイニング分析を通して仮説的理論を形成する。 二つ目は、いわゆる「評価ツール」に関する点である。「造形遊び」の思想的・制度的成立に関わった西野範夫が、汎用性のある教育的価値の構造(観点別評価規準表、ルーブリック、チェックリスト、ベンチマーク等)を構築することに対して否定的な認識を示していたと考えられることが、これまでの調査を通して明らかとなった。今後は調査結果を重く捉え、「造形遊び」が本来的に有している価値生成的側面が学習活動自体のみならず評価を通しても具現化される在り様を志向し、規範性や汎用性を有する「評価ツール」の作成をあえて行わない姿勢を選択する。また当初は、研究協力者の教師のもとで公開授業を行い、公開授業の参加者に対するアンケートを通した「評価ツール」の信頼性・実行可能性に関する検証を行う予定であったが、これも中止とする。対応策としては、教師自身による主体的な評価規準等の言語化を促すための、「ネットワーク的表象としての『造形遊び』の評価モデル」を提案し、小学校教員を対象とする大規模なアンケート調査を通して、評価モデルの有効性を検証する方策をとる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍と「造形遊び」の授業者の少なさを理由として、②実践的研究に含まれる、授業データ及び授業者へのインタビューに基づく調査を中止したため、当初予定していた打ち合わせの「旅費」、研究協力者に対する「人件費・謝金」、文字起こしのための「その他」の経費の必要額が大きく減少する見込みとなった。今後の使用計画としては、このような対面によるデータ収集に基づく実践調査に代替する方法として、大規模なアンケート調査を行い、すでに提案した評価モデル=仮説の有効性や、仮説に含まれる8つのテーマに関する語彙等について分析する予定である。そのため、アンケート票の郵送、データの分析と保存、データベースの作成のための費用として、未使用額を充当する計画とする。
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