研究課題/領域番号 |
19K14254
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 絵里子 弘前大学, 教育学部, 准教授 (60828721)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 造形遊び / 評価 / 図画工作科 |
研究実績の概要 |
2022年度は美術科教育学会リサーチフォーラムin東京・弘前「共に考える2030年代の美術科教育における『造形遊び』の意義」を企画・運営した。これは隔月1回、全3回であり、第1回は11月20日13:00から16:30までCCAAアートプラザ(東京・新宿区四谷)からzoomを用いてオンライン方式で開催した。第2回は12月4日13:00から16:00まで横浜、大阪、和歌山、弘前と参加者をzoomで中継した。第3回は1月22日13:00から17:00まで弘前大学教育学部棟を主会場とし、一部遠隔で滋賀、新潟を中継しながらハイブリッド方式で開催した。また、全回で1ヶ月間のオンデマンド配信を提供した。申込者数は登壇者・関係者を含めて、第1回181名、第2回141名、第3回のオンライン参加163名であった。第3回の弘前会場には県内外より6名の来場者が訪れた。 申請者は2022年度から、柴田学園短期大学・特任教授と弘前大学附属小学校・教諭3名との共同研究「子どもが目指す『かたち』の現出に関する一考察-図画工作科『造形遊び』の協同的な評価を通して-」を行っている。3月27日に、美術科教育学会第45回兵庫大会で同名の題目による口頭研究発表を行った。その際、「造形遊び」を「再現や模倣、機能的な問題解決の次元に回収されない『何事か』を想起し、それが『うまくいっている』状態をイメージして、それに向かって行為すること」と再定義した。さらに、意志と造形性が一体化した、子どもの行為における動きのイメージを指す「かたち」という造語を用いて、実践の「よさ」に対する教師の解釈・評価が協同的な場でどのように語られるのか、事例に即して明らかにする研究の計画を示した。 本研究の活動展開や成果は、令和5年度採択の研究課題(科研費:若手研究、23K12761)へ発展させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「①理論的研究」については短期間では到達困難であり、計画修正が必要であることが判明したため、別の研究課題の中で引き継ぎ、広範な文献を収集し長期的に実施する。「②実践的研究」はコロナ禍や実践者の少なさに起因する計画修正を行ったが、実践調査に基づく学術論文を2021年3月に公刊することができた。 リサーチフォーラムは申請時より計画に含めてはいたものの、計画以上に議論の進展があり成果を上げることができた。第1回で穴澤秀隆氏(元・美育文化編集長)は「『戦後美術教育の位相』論争(金子/柴田論争)と『美育文化』」、金子一夫氏(茨城大学名誉教授)は「『金子/柴田論争』の歴史的意味-美術教育思想の次元と学校教育政策の次元-」について論じた。柴田和豊氏(東京学芸大学名誉教授)は「美術教育」の訳語や類語、「金子氏の主張とそれへの見解」「造形遊びについて」等を論じた。宇田秀士氏(奈良教育大学)は「『造形遊び』の課題と展望-『金子/柴田論争』に触発された〈討議企画〉を踏まえて-」を論じた。第2回は穴澤氏「造形遊びの興亡と『美育文化』」、佐藤賢司氏(大阪教育大学)「思想-思考…“こどもなるもの”としての思考する私 『つくること』のパラダイム」、永守基樹氏(和歌山大学名誉教授)「『造形遊び』21世紀の再布置化へ」であった。第3回は新関伸也氏(滋賀大学)の進行で、大嶋彰氏(滋賀大学名誉教授)「『意味生成カウンセリング』への補助線」、村田透氏(滋賀大学)「子どもが〈自己(私)〉と〈意味〉を生成(つくり、つくりかえ、つくる)する学びとしての『造形遊び』」、八嶋孝幸氏(弘前大学教育学部附属小学校)「2030年代の造形遊びの実施に向けて」、ゲストスピーカー塚本悦雄氏(弘前大学)との対話、佐藤による研究成果発表「『造形遊び』の評価・目標設定に関する研究の成果と計画」を行った後、若手研究者4名の公開討論を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の活動展開や期待される成果は、令和5年度採択の研究課題(科研費:若手研究、4,680,000円、課題番号23K12761)へと連続的に発展させる予定である。その目的は、「造形遊び」の目標設定原理を、木村素衛の「表現の弁証法」に代表される形成性の論理と、教育・陶冶とが重なり合う観点から解明すること、および授業の場で児童が「よさ」の感覚・イメージを探求する姿をこのような原理を通して分析することである。その問題設定は子どもたちの、変化の激しい時代の中で、感性を発揮して主体的に価値を生み出し、自己と世界を更新してゆく力を育成するには、どうすればよいかということに端を発している。この研究を通して、「表現の弁証法」が生起する教育的条件を突きとめ、感性から公共性に至る通路を開き、質的な転換を起こす力や、既存の枠組みを更新する力を育成する授業の実現可能性を高めることができると予想される。具体的な方法としては、「表現の弁証法」を把握し「造形遊び」の分析枠組みへと応用するための理論的研究、授業中の子どもの姿を観察・分析し「表現の弁証法」が起こる教育的条件を解明するための実践的研究、そして質問紙調査によって「造形遊び」の現状やこれまでの研究で申請者が作成した評価モデルの有効性を明らかにするための社会的調査を含む3種類を挙げる。 さらに、2022年度美術科教育学会リサーチフォーラムin東京・弘前の報告書を冊子媒体で印刷・配布し、PDFを学会ホームページに掲載することで研究上の資料としての便宜を図ることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
リサーチフォーラムの報告書の文字起こし、印刷、送付が年度内に完了しなかったため、研究期間を延長して2023年度に実施する。
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