研究実績の概要 |
本研究の目的「日本の大学院生・若手研究者の心理的特徴を調査・分析する」ことに照らし,2023年度は昨年度までに収集した,非資格系分野の大学院修士(博士前期)課程の経験者13名へのインタビュー調査の成果発表,心理学分野の主要学術誌の原著論文の投稿から査読までの日数の集計,大学院を経験した者と未経験者の双方を対象としたオンライン調査を行った。 インタビューの成果発表では,博士(博士後期)課程への進学の検討では,皆が「研究を生業とするかどうか判断する」というステップを通過していること,その判断には,研究の楽しさ,自信の能力への確信の持てなさ,金策が立つかが影響することを示した。 オンライン調査は,アイブリッジ株式会社のFreeasyを使用し,22~75歳の男女697名に行った。このうち大学院(修士課程,博士課程のいずれかまたは両方)に在学経験がある者は365名,在学経験がない者は332名であった。精神的健康に関わる尺度の得点が大学院経験の有無により異なるかをWelchの検定により分析した結果,うつ症状(CES-D;島他, 1985),ADHDのスクリーニングおよび特性による不都合の度合い(ASRS-J;Takeda et al., 2017),人生に対する満足(角野, 1994)は,大学院経験者のほうが未経験者よりも1%水準で有意に高い値となった。自閉症傾向(AQ-10, Kurita et al., 2005)および特性不安(清水・今栄, 1981)については有意差はみられなかった。 今後,年代や性別,分野ごとでも,大学院経験の影響の差異を分析・考察する予定である。また,大学院修了や業績を生み出すまでの時間的見通しを考える材料として,論文の投稿から査読までの日数の集計も引き続き行っていく。大学院生サポートに関する制度・環境,心理教育プログラムについても考察を深めたい。
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