研究実績の概要 |
本研究は限局性学習症の定義内にある推論機能に関する基礎的研究である。推論の1つである類推は、過去の経験(ベース)と現状の課題(ターゲット)との間の類似性を抽出し、現状の課題に知識を転移することで行われる(楠見, 2002; 寺尾, 1998)。この類似性の抽出が、見かけの類似性(属性類似)のみに着目し、具体的な問題の構造(関係類似性)を把握できない場合には、知識をうまく転移できず、問題解決をうまく行えないと考えられる。 初年度は、属性類似と関係類似といった共通項抽出の違いが、類推と学習に及ぼす効果に関して、大学生34名を対象に予備的に検討した。共通項抽出に関して、WAIS-Ⅲの「類似」を使用した。「類似」は2つの単語の共通点、類似点を口頭で回答する課題である。問題を解き進めるにつれ、2単語間の関係類似性に着目する必要が生じるため、本研究では「類似」の得点が高い参加者ほど、「関係類似性」に着目できていると定義した。また類似課題は、太田・山崎(1995)が作成した課題を改変して使用した。類推課題はベース課題とターゲット課題から構成されており、ベース課題における問題解決の手法が、ターゲット課題にうまく適用できているか、0から4点の間で評点する課題であった。 WAIS-Ⅲの「類似」と類推課題の相関分析の結果、有意な相関は認められなかった(r=-.015, p>.1)。また、類推課題の得点高群と低群に分けて、WAIS-Ⅲの「類似」のt検定を実施したが、両群で「類似」成績に有意差は認められなかった(p=.807)。以上から、本研究におけるWAIS-Ⅲの「類似」と類推課題との間に関係性を見出せなかった。本研究の類推課題は、1点と4点に多くが分布する2峰性の度数分布を示した。これらの類推課題が、日常生活に必要な類推機能を反映しうる課題となっているか、今後検討を要する。
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