本研究では、中学校段階の聴覚障害児における漢字の読み習得の特徴を明らかにすること、および、彼らが用いる主たるコミュニケーション手段の違い(音声か手話か)が、漢字の読み習得にどのような影響を及ぼすか明らかにすることである。さらに、漢字の読み習得に影響を及ぼす漢字要因あるいは認知要因を整理することで、漢字の読み認知モデルを作成することも目的とする。 漢字の読み達成度テストを実施し、聴覚支援学校に在籍する生徒のべ68名のデータを収集した。主たるコミュニケーション手段にかかわらず、字形的な要因(画数)の影響はほとんど見られないことが明らかになった。同様に、主たるコミュニケーション手段にかかわらず、漢字の読み習得度は学年発達に伴って向上していくことが明らかになった。 また、漢字の読み習得に影響を及ぼす認知要因に関する検査も実施し、各検査のデータをもとに、音声、あるいは手話を主たるコミュニケーション手段としている聴覚障害児が、それぞれどのような認知特性を有しているのかを類別し、それぞれの聴覚障害児の漢字の読み習得の特徴を比較、検討した。その結果、音声を主たるコミュニケーション手段とする聴覚障害児の場合、発語明瞭度の高さおよび語彙力の高さが漢字の読み習得に重要であることが示唆された。一方、手話を主たるコミュニケーション手段とする聴覚障害児の場合には、語彙力の高さが漢字の読み習得に影響を及ぼす要因であることが示された。 これらの結果をもとに、主たるコミュニケーション手段の違いによる漢字の読み指導の在り方の違いについて検討する必要性が示唆された。
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