研究課題/領域番号 |
19K14293
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石塚 祐香 筑波大学, 人間系, 特任助教 (40817574)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 模倣 / 言語発達支援 / ICT |
研究実績の概要 |
本研究では、ICTを活用した家庭密着型の言語発達支援を行い、自閉スペクトラム症(ASD)児が言語を獲得する過程を総合的に明らかにすることを目的としている。本年度は、家庭密着型の言語発達支援を構築するために、以下の研究を実施した。
1. ASD児に対する家庭密着型の言語発達支援の効果検証 研究(1)支援方法の検討:就学前のASD児を対象とし、絵本を支援者と一緒に見る場面を設定した。子どもの自発的な発話に対して支援者が即時に模倣する「随伴模倣」と、支援者が即時に応答する「言語賞賛」を比較した。その結果、随伴模倣を用いる方が、支援者の発話を拡張して応答する反応(例:支援者の発話「でんしゃだね」→子どもの発話「赤いでんしゃだ」等)が増加することが示された。研究(2)支援形態の検討:研究(1)で効果が示された「随伴模倣」を用いた支援を、ASD児の家庭に適用した場合にも効果が得られるかを検討した。その結果、大学の支援室で支援を行ったASD児も家庭で支援を行ったASD児も発声、音声模倣、支援者への注視行動が増加することが示された。さらに保護者が支援を実施した場合にも高い効果が示された。 2. 自閉スペクトラム症児に対するICTを活用した家庭密着型の言語発達支援教材およびマニュアルの作成 就学前の自閉スペクトラム症児の保護者数名に対する聞き取りおよび研究(1)(2)より得られた知見に基づき、タブレット端末で使用可能な言語発達支援教材を開発した。また、それぞれの家庭の実情に合わせるためにタブレット端末を用いない場合にも活用可能な言語発達支援教材も開発した。あわせて保護者が家庭で活用するための支援マニュアルを作成した。研究(3)支援の効果検証:開発した教材および支援マニュアルを用いて無発語の自閉症児に対する家庭密着型の言語発達支援の効果を検討した。毎週家庭で週2回, 5分以内の支援を約6週間実施した結果、音声模倣が獲得され、多様な語彙が獲得された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ASD児に対する家庭密着型の言語発達支援の実施を計画しており、予定通り遂行された。
特に以下の3点から順調に進展していると評価した。 1. 研究(1)において、支援者との関わり場面の中で就学前のASD児の応答的な発話を促進するための支援方法を明らかにした。その成果について、査読付国際会議論文に掲載された点。 2. 研究(2)において、研究(1)で効果が得られた支援方法が家庭においても適用可能であることを明らかにした。その成果について、査読付学術雑誌論文に投稿している点。 3. 研究(3)において、ICTを活用した家庭密着型の言語発達支援教材および支援マニュアルを開発し、無発語のAS D児に適用した結果、言語発達を促進する効果が得られた点。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、以下の2点が挙げられる。 1.ICTを活用した家庭密着型の言語発達支援の継続: 多様な発達段階のASD児に対して、ICTを活用した家庭密着型の言語発達支援を継続し、その効果を評価する。得られた結果をもとに、開発した教材および支援マニュアルの再構築を行う。 2. 言語の獲得に関係する発達・知覚・行動基盤の評価と分析:言語の獲得に関係する発達メカニズムを多角的に明らかにするため、支援室で得られた発達・知覚・行動のデータと、家庭場面で得られたデータを縦断的に評価する。ASD児が「発声から1語発話」、「1語発話から2語発話」を獲得する過程とそれらの獲得に必要な条件を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月末に予定されていたデータ分析の謝金分5243円が、新型コロナウイルスの影響で実施ができなかった。 翌年度の謝金分として上乗せし、使用する。
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