本研究では、日本語の読みに特化した二重経路モデルを開発し、開発したモデルを用いたシミュレーションから、発達性ディスレクシア例や失読例が示す仮名の読み障害のメカニズムを解明し試験的に読み指導の効果を予測することを目的とする。最終年度の2022年度は、本研究期間中に行った実験・症例検討で得られたデータを総合考察し、仮名の読み処理に関して、以下の仮説をたてた。①英語の二重経路モデルの処理過程同様に、仮名においても、大きくは、視覚分析、語彙経路、非語彙経路、出力バッファーから成るシステムで読みが成立する。そして、②仮名の文字列を処理する非語彙経路は、漢字の読み処理と独立した経路として存在すると仮定できる。また、③非語彙経路の発達・獲得には、音韻能力の他に、視覚認知力も関与しており、視覚認知力の弱さによって、仮名の非語彙経路の獲得・使用に障害が生じうる。④発達性ディスレクシアの症状の一つである、仮名の読み速度が遅いという症状の背景には、非語彙経路の処理速度が遅いこと、文字入力辞書のサイズが小さいこと、文字入力辞書内の表象の活性が弱いことの3点が考えられる。⑤この障害機序(④で述べた背景)に基づいた場合に、仮名をランダムな順で速く読むことを積み重ねて非語彙経路の処理速度を上げる練習に加えて、実在語をかたまりで捉えることができるように様々な呈示時間で呈示された実在語を速く読むことを積み重ねて文字入力辞書の表象形成・活性レベルの向上を促進させる練習の双方を行うことで読み速読を上げることが望ましいと考えられる。これらの仮説の妥当性を検証するべく、シミュレーション実験を行おうとしたが、仮説検証にはシミュレーション・モデルの処理システムの変更が必要で、プログラミングを継続して行う必要が生じ、当初の計画通りにシミュレーション実験ができず、仮説の検証ができなかった。
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