ワーキングメモリとは、課題遂行に一時的に必要となる記憶のことである。知的障害児・者にはワーキングメモリの弱さがしばしば見られ、彼らが経験する困難にも密接に関わることが指摘されている。 本研究では、知的障害児・者のワーキングメモリの特性と関与する脳活動を検討し、さらにワーキングメモリに関する評価を活用した教育支援方法を検討することとした。研究期間を通じて新型コロナウイルス感染症感染拡大による影響を大きく受け、当初の計画を変更する必要が生じたが、知的障害児・者を対象とした行動実験および脳機能計測と教育支援方法に関する事例研究を行うことができた。 具体的には、ワーキングメモリ課題を実施し、課題遂行中の前頭前野の脳血流動態を近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて計測した。ワーキングメモリ課題には、同時的視空間性ワーキングメモリ課題と継次的視空間性ワーキングメモリ課題、言語流暢性課題を実施している。 教育支援方法に関する事例研究に関しては、ワーキングメモリを含む認知・神経心理学的問題が考えられた知的障害児1名に対して、ワーキングメモリ課題遂行時の脳機能計測を含む検査バッテリーを用いて評価を行った。得られた結果に基づいて教育支援方法を提案し、評価の妥当性と教育支援方法の有効性を保護者による評定を用いて検討した。 最終年度には、行動実験および脳機能計測により必要なデータを新たに収集するとともに、事例研究を行った対象児の追跡調査を行った。以上をもって、本研究における一定の結論を得ることとした。
|