研究課題/領域番号 |
19K14314
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
仲谷 佳恵 東京工業大学, 教育革新センター, 特任講師 (70771864)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教授学習支援システム / 教育工学 / 第二言語習得 / スピーキング / 方略的能力 |
研究実績の概要 |
語彙の選択能力を判断するためのタスクについて,当初は,適切な語彙を選択する能力として捉えていたが,学習者の言語運用能力を向上させるためには,それだけでなく,「発話しようとしている内容をできる限り,自分の今すぐに使用できる語彙の範囲でなるべく伝えようとする」能力(方略的能力の一部)を想定する必要があることが,学習者の発話内容を分析する過程で明らかになってきた. そこで,方略的能力を測定するスピーキングタスクの設計と,そのタスクをウェブブラウザを使用してオンライン上で行えるシステムの開発を行った.また,このシステムを活用し,急遽共同研究者の大学でのデータ収集に切り替えたことで,多様な英語能力の大学生約150名を対象とした,横断的なスピーキングデータの収集を行うことができた. また,前述した,高校の生徒を対象に行なった予備実験によって,従来の英語教育で習得できる方略的能力と,英語の学習段階に関係なく多くの学習者が身についていない方略的能力を明らかにした.以上の結果から,言語運用能力における語彙の選択能力の定義の見直し,語彙の選択能力と方略的能力との関係性,それらの能力の発達段階および従来の英語教育では延ばしづらい内容についてを明らかにした. 大規模スピーキングデータの分析に必要な観点の洗い出し,および,言語運用能力を向上させるためのシステムの改良・モデルへの提案に向けて一定の成果を得られたと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の今年度の遂行にあたっては,当初想定していた計画全てを実行することが難しい状況であった.理由の1つは,COVID-19の流行の継続により,英語スピーキングデータ収集の協力を依頼していた中学・高校においては予備実験のみの実施に留まり,授業での中長期のデータ収集が2022年1月現在行えていないことによるものである.そのため,筆者らが開発した学習法を一定期間行う実験群と,行わない統制群の方略的能力の変化の比較を行う縦断調査は実施が叶わなかった. その一方で,語彙の選択能力を判断するためのタスクについて,当初の研究で想定していたもの以上の成果を得ることが出来た.当初は,適切な語彙を選択する能力として捉えていた.しかしながら,学習者の言語運用能力を向上させるためには,それだけでなく,「発話しようとしている内容をできる限り,自分の今すぐに使用できる語彙の範囲でなるべく伝えようとする」能力(方略的能力の一部)を想定する必要があることが,学習者の発話内容を分析する過程で明らかになってきた. 今年度の研究成果によって,言語運用能力の捉え方を,従来の英語教育でまだ十分に焦点が当たっていない部分にまで,さらに発展させることが出来,大規模スピーキングデータの分析に必要な観点の洗い出し,および,言語運用能力を向上させるためのシステムの完成・モデルへの提案に向けて一定の成果を得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
現在,横断調査で収集した約150名の英語スピーキングデータについて,学習者が使用している方略の詳細を分類した上で,その方略の個数や種類と,学習者の言語知識やスピーキングテストのスコアといった成績,先行研究で開発されている方略的能力の尺度との関係性を分析中である.この分析によって,言語知識とともに育成される方略と,従来の英語の試験や先行研究の指標では見取れておらず見過ごされている方略の違いをより詳細に明らかにできると考えている.また,本年度に実施できなかった縦断調査をまずは小規模に実施し,方略の具体的な発達プロセスについても明らかにしていく計画を立てている. これらの結果を踏まえたうえで,システムへの反映・改修を行い,現場で活用できるシステムとして実装を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
協力先である中学・高校での大規模調査がコロナ禍の影響で中止になったこと,参加する国際会議が全てオンライン開催となり旅費の支出がなくなったためである. 今後の使用計画としては,大学で実施した大規模調査のデータの書き起こし依頼や,発話を一つ一つ分析するにあたっての分析補助のためのRAの雇用費,2021年度に明らかになった知見を元にシステムを改修する費用,明らかになった知見を国内外の学会で発表したり論文に投稿したりするための費用等に使用する.
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