研究課題/領域番号 |
19K14339
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
池田 貴子 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任助教 (70773844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 野生生物と人との距離 / エキノコックス / 獣害対策 / 人獣共通感染症 / サイエンスビジュアリゼーション / 教材開発 / 地域住民 / リスクコミュニケーション |
研究実績の概要 |
1.エキノコックス対策を専門とする研究者をゲストとし、代表者の池田がファシリテーター兼キツネの生態解説を担当するサイエンスカフェを札幌市紀伊國屋書店本店にて開催した。当日は、学生と共に作成したエキノコックスについてのインフォグラフィクスを使用した。約80名の市民が来場し、双方向的なやりとりの弾むカフェとなった。 2.札幌市内の大型公園にはキツネが営巣しているケースが多い。中でも住民からの苦情や不安の声に悩まされている公園と協働して、都市にすむ野生動物についての理解を深めるワークショップを開催した。住民や公園にとってセンシティブな「エキノコックス」が目立ち過ぎないように留意した仕掛けを学生らと作り、当日は200組程度の親子が参加し大変好評を得た。 3. 2019年度「野生生物と社会」学会にて、テーマセッション「野生生物研究と社会をつなぐ「科学技術コミュニケーター」の役割を考える」を実施した。代表者の池田はエキノコックス対策の現状と問題点をまとめたうえで、上記1と2で実施したアンケート調査の結果を報告した。また、学生はサイエンスビジュアリゼーションの紹介と、サイエンスアゴラ内で実施した野生生物と人との距離感について考えるワークショップについての実践報告をした。 4. 沖縄科学技術大学院大学が主催するヒアリ対策ワークショップの実施および教材化についての論考をまとめ、学術誌「科学技術コミュニケーション」第26号に発表した。 上記のほか、5. 市民向けシンポジウムでの講演への招待が1件、6. 民放テレビ番組出演が1件あり、いずれもキツネの生態およびエキノコックスについて紹介した。1、2、5の参加者に対し、エキノコックスについてどこで学習したかと知識と意識を問うアンケート調査を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的は、エキノコックスが風土病として定着している北海道において、有用でありながら社会実装に至っていないエキノコックス対策の具体的な方法としくみを市民にまで広く浸透させることと、その際に有用な教材を開発することである。そのためには、1.エキノコックスとその媒介者であり身近な動物であるキツネについて市民に広く情報提供すること、2.市民がその情報をどのような形で得ることを求めているのかを調査し、教材作成の指針とすること、そして3.野生動物の研究者に対しても科学技術コミュニケーションの重要性と実践例を共有することが必要である。2019年度は、市民向けの情報提供と意識調査の機会を3度得て、上記の1と2についてある程度達成した。また、地域密着型コミュニケーションが必須となる疫学研究においては住民や行政の理解と協力が必須であるが、これについても1を通して徐々に信頼関係を構築しつつある。さらに、野生動物管理がキーとなる人獣共通感染症の疫学においては市民だけでなく野生動物研究者と行政との連携が必須となるが、科学技術コミュニケーションの概念が未だ市民権を得ていない野生動物研究と行政のコミュニティの中で、学会の場を使ってディスカッションする場を設けることができたため、3についても最初の1歩を達成することができた。このうえ、これらの活動が知られたことで、市民や行政からのエキノコックスやキツネ対策についての問い合わせや協力依頼が増加し、1に関しては特に想定よりも速いペースで進んでいる。以上より、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に市民に対し行なったエキノコックスについての意識調査をまとめて分析し、必要であれば質問項目を再検討して調査範囲を広げて改めてアンケート調査を実施する。並行して、エキノコックス教材の制作を進める。具体的には、2019年度に学生の実習の中で制作したインフォグラフィクスを吟味して加筆修正を行なう。また、ヒアリ対策ワークショップの分析では子供向け教材作成時の観点がいくつか得られた。これをもとに、小学校中学年~高学年を対象として「なんとなく触ってしまう」ような仕掛けのある教材をめざし、すでに試作に着手し始めている。試作品の完成後はふたたびワークショップを開催して実際に教材を使用し、その使用感を調査して改良していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、1.初年度である2019年度は教材を実際に制作する前の準備に十分に時間をかける必要があったこと、2.当初購入予定であった機材が在庫切れで購入できなかったこと、3.新型コロナウイルスの感染拡大により、予定していた調査と出張がキャンセルになったこと、の3つである。2020年度は、まずは入荷次第、必要機材を購入する。また、新型コロナウイルスが収束し次第、調査と出張を再開する。さらに、教材の物品制作に入るため、材料費等を支出する。
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