本研究は、育成する児童・生徒像を、これまで相克の関係にあった「専門家育成」と「市民育成」を超えて、「専門家」を包摂した「未来を拓く次世代育成」と定義した上で、物理・化学・生物・地学の専門分化した既存の科目を「つなぐ」という視座から再考することを通して、未来を拓く次世代育成のための理科カリキュラムを理論的・実証的にデザインしていくことを目的としている。 最終年度となる本年度は、欧州で開発されたSocio-scientific inquiry-based learning(以下,SSIBLと略記)モデルに着目し、国内外の先行研究を参考に理論的検討を行い、理科授業を開発した後、実際に試行的授業を実践し、全生徒を対象に行った事後調査の結果から学習指導要領で示された3つの柱に基づく資質・能力がどの程度育成されたのかを検証した。調査問題はエネルギー資源に関連した記述問題3問で、正答・誤答では評価できない記述内容の質についてルーブリックを設定し評価した。3問の内訳は【観点1】SDGsの視点からエネルギー資源や環境について正しく理解しているか【観点2】エネルギー資源の利用に関してトレードオフの視点も絡めた複数の課題を見いだせるか【観点3】エネルギー資源の利用に際して、日常行動で配慮すべき事項を記述できるかとなっている。両群のデータをKolmogorov-Smirnov検定で検証した結果、両群の全てのデータにおいて正規分布をしていなかったため、Mann-WhitneyのU検定により両群間の差を検定した。その結果、全ての観点において中央値は対照群より実験群の方が有意に高かった為、SSIBLモデルを導入した先進的な理科授業を展開することで,学習指導要領の3つの柱に基づく資質・能力の育成に関して一定の効果がある事が明らかとなった。
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