研究実績の概要 |
令和4年度は,日本及び米国における向社会的意思決定の心理基盤の検討と,日本国内での日本人と在日米国人を対象とした向社会的意思決定のfMRI実験を予定していた。COVID-19の感染リスクが依然として高いことから,日本および欧米において向社会的意思決定と関連する心理変数についての比較文化研究を実施した。 オンラインクラウドソーシングサイトを介して,日本および米国・カナダ・英国在住の成人男女400名に対して向社会的意思決定に関するオンライン実験および質問し調査を実施した。向社会的意思決定と心理変数の関連について分析したところ,先行研究 (Lemmers-Jansen et al., 2018) と同様,共感性,特に視点取得と向社会的意思決定の間に有意な関連が示された。一方,先行研究において向社会的意思決定との関連が示唆されていた文化的自己観 (Hashimoto & Yamagishi, 2016) については,向社会的意思決定との間に有意な関連は見出されたなかった。また,向社会的意思決定に対する各心理変数と文化の交互作用について検討した所,視点取得と文化の交互作用効果のみ有意となった。分析の結果,日本において視点取得と向社会的意思決定は逆U字の関係を示すのに対し,北米ではU字型に近い関係が示された。この結果はすなわち,日本においては視点取得能力とともに向社会的意思決定が低下していくが,ある水準を超えると,その後は視点取得能力とともに向社会的意思決定が高まる傾向にあるといえる。一方,欧米では向社会性の高まりとともに向社会的意思決定が高まっていくものの,ある程度の水準を超えると向社会的意思決定の高まりは逓減していく傾向にあることが示された。
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