研究課題/領域番号 |
19K14358
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
綿村 英一郎 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (50732989)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 量刑判断 / 裁判官 / 道徳 / 死刑 |
研究実績の概要 |
本研究の大きな目的は,裁判官のもつ「法的正義」と一般人が抱く素朴な正義とでは何がどう異なるのか,裁判官は「法的正義」をどのようにして専門的知識や経験と関連づけ量刑判断に算定しているのかといった問題について,裁判官と一般人との比較,同一裁判官におけるON/OFFモードの比較を通じて明らかにすることにある。その1年目となる本年度では,研究の下準備として,20~80代の一般人200人(男女半数ずつ)を対象にオンライン調査を行い,本実験で使用するシナリオおよび質問項目のテストを行った。結果として,十分な信頼性・妥当性のある尺度を選定することができたため,今後の本実験でも使用するつもりである。なお,この調査は,質問項目の選定も兼ねた「実験」でもあった。具体的には,強盗殺人罪で被告人が起訴されたという裁判員裁判(被告人は起訴事実をほぼ全面的に認めているため量刑が主な争点になっている)を題材に,参加者には量刑判断含めいくつかの質問項目に回答してもらっていた。何点か興味深い結果が得られたが,中でも量刑判断において「死刑」や「無期懲役刑」を回答したものよりも「有期懲役刑」と判断する者の割合が特に高かったという点は今後検討を要すると考えられる。伝統的に,厳罰傾向の強い日本における先行研究では,強盗殺人罪のような重大事件で有期懲役刑と判断される割合が死刑や無期懲役刑よりも高くなることはあまりない。とはいえ,一般人の量刑判断の基準が急に変化したとの理由も考えにくいことから,おそらくは本研究におけるなんらかの手続きが参加者に寛容的な判断を促したものと推察される。今後の研究では,他の測定項目との相関分析等を通じ,その点についても検討していきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本実験に使用する質問項目の選定までは済んでおり,分析の流れも見通しが立っている。十分な数の参加者を募集することができれば速やかに次のステップに進めることができるであろう。
|
今後の研究の推進方策 |
計画当初は現役の裁判官を対象に実験を行う予定であったが,協力を打診した地裁の対応がかなり慎重であったりなど,予定よりも労力がかかることが判明した。そのため,今後は,弁護士登録されている元裁判官を対象に参加者の募集を呼びかける予定である。また,オンラインでのインタビューや実験など,データを得る方法についても柔軟に対応できるような体制を整える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,初年度にあたる2019年度に実験材料となる「裁判ビデオ」を作成する予定であったが,実際の裁判により近い材料づくり(特に,最近の刑事裁判における手続きのアップデート)に時間を要したため,使用額が予定に満たなかった。本年度は,法学研究者にアドバイザーとなってもらうことで最新情報を材料づくりに反映できるようにするなど,作業効率を高められるよう措置を講じる。
|