| 研究課題/領域番号 |
19K14359
|
|---|
| 研究機関 | 広島大学 |
|---|
研究代表者 |
古川 善也 広島大学, 教育学研究科, 研究員 (50826477)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
| キーワード | モラルライセンシング / 道徳 / 道徳アイデンティティ / 向社会性 / 制御焦点 |
|---|
| 研究実績の概要 |
個人・組織の道徳行動の促進として道徳教育，経営倫理教育などが取り組まれているが，このように社会・教育政策としての道徳行動の推進は，必ずしも人の道徳性を育み，不道徳行動の抑制に繋がるわけではない。道徳行動の実行は時として逆に不道徳行動を促進してしまうことさえある(モラルライセンシング効果)。本研究では，モラルライセンシング効果に着目し，先行の道徳行動が後の不道徳を促進する“ライセンス”となるか，あるいは更なる道徳行動を引き起こす一貫性をもたらすか，その分岐のプロセスを説明するために，1つの媒介要因(心理的Entitlement)と2つの調整要因(制御焦点と価値)から成る仮説モデルを提案・検証することを目的とした。
1年目である2019年度は研究1-A，1-Bを実施する計画であったが，研究1-Aについて検討方法を変えた形での実施に留まった。具体的には，普段どの程度，道徳的に振る舞っているかの指標としてとらえることのできる道徳アイデンティティの象徴化の程度を用いることで，特性レベルでの道徳行動の蓄積の多寡を測定した。この道徳アイデンティティの象徴化が心理的Entitlementを媒介して，不道徳行動を促進することを4つの調査を実施し，明らかにした。つまり，当初の計画とは変更があるものの，研究1として計画をしていた道徳行動が不道徳行動の可能性を高めてしまうモラルライセンシング効果における心理的Entitlementの媒介効果を特性レベルでの検証で示すことができた。また，研究3-Aで検証することを計画していた道徳性による調整効果についても一貫した結果ではなかったものの一部認められた。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度は研究環境の変化から，研究計画通りには研究を遂行することができなかった。これは研究環境の変化から，研究実施を可能とするまでに時間を要した点，これまでと異なり，研究実施に用いることのできる時間が変化し，それに対応をしきれなかった点が理由として挙げられる。しかしながら， Two-Phase Modelの中で提案をしているモラルライセンシングの生起プロセス媒介要因である心理的Entitlementについて，特性レベルでの検証を実施した。具体的には，普段どの程度，道徳的に振る舞っているかの指標としてとらえることのできる道徳アイデンティティの象徴化の程度を用いることで，特性レベルでの道徳行動の蓄積の多寡を測定し，この道徳アイデンティティの象徴化が心理的Entitlementを媒介して，不道徳行動を促進することを明らかにした。
|
| 今後の研究の推進方策 |
2020年度については，実験室実験により【研究1】（心理的Entitlementの媒介効果を検証する。道徳行動はEntitlementが高め，利己的行動(研究1-A)や功利的判断(研究1-B)を生起しやすくさせるかの検証）を早急に実施していく。ただし，新型コロナウィルスの蔓延今後が長引いていった場合，参加者を実験室に呼んだ上で実験課題を実施する手続きを実施することは困難となることが予想される。そのため，クラウドソーシングサービス等を利用した参加者募集を行うWeb上で実験を実施できるように手続きの修正を行っていく。また，研究1-Bの功利的判断を用いた実験について，関連研究(Francis et al., 2017)において，VRによるリアリティのある状況提示からの道徳判断ではシナリオ上での道徳判断とは異なる反応を示すことが明らかにされている。生態学的な妥当性を高めるうえでもよりリアリティを持った状況設定での検討は重要であり，実験にVRを加えた検討も行っていく。
|
