本研究では,モラルライセンシング効果に着目し,先行の道徳行動が後の不道徳を促進する“ライセンス”となるか,あるいは更なる道徳行動を引き起こす一貫性をもたらすか,その分岐のプロセスを説明するために,1つの媒介要因(心理的Entitlement)と2つの調整要因(制御焦点と向社会性)から成る仮説モデルを提案・検証することを目的とした。 2019年度は,モラルライセンシング効果の検証のために,道徳アイデンティティの象徴化(特性レベルでの道徳行動の蓄積の多寡)が心理的Entitlementを媒介して,不道徳行動を促進することを明らかにし,道徳行動が不道徳行動の可能性を高めてしまうにおける心理的Entitlementの媒介効果を特性レベルでの検証で示すことができた。2020年度は,モラルライセンシング効果により道徳判断を容易にさせるかを確認するために,道徳ジレンマ課題を用いた実験を実施した。しかしながら,モラルライセンシング操作が道徳判断に及ぼす影響に対して想定していた調整要因(制御焦点)の有意な効果は認められなかった。2021年度は,モラルライセンシングが道徳判断に及ぼす影響の検討にVRを用いることを念頭にVR機器を用いての予備的な実験を実施した。操作場面の呈示にVR機器を用いての方法を適用可能であることを確認した。2022年度は,モラルライセンシング効果に対する心理的Entitlementの媒介効果,および制御焦点,向社会性の調整効果を検討する研究を実施した。しかしながら,実験枠組みでの検討ではモラルライセンシング効果を支持する結果が得られなかった。また,心理的Entitlementによる媒介効果は認められなかった。制御焦点,向社会性の強さによる調整効果についても,予測を支持する方向での効果は認められなかった。 全体として想定したモデルは支持する結果は得られなかった。
|