研究実績の概要 |
本研究の目的は、自閉症スペクトラム障害(ASD)における社会的コミュニケーション不全にまつわる「社会的動機づけ仮説」を脳機能イメージングを用いて検証することである。具体的には、「心の理論(theory of mind)」に関連する脳領域と「報酬処理」に関連する脳領域の相互作用がASD患者と定型発達者でどのように異なるかに着目している。研究計画の2年目である2020年度には下記の知見を得た。 1) ASD患者と定型発達者を対象とした安静時fMRIの multi-site datasets(Autism Brain Imaging Data Exchange 1 & 2)を解析した。その結果、報酬系の一部である線条体を含む皮質下ネットワークと、「心の理論」領域とオーバーラップするデフォルト・モード・ネットワークの機能的結合(離れた脳部位間のfMRI信号時系列の統計的依存性)が、ASD患者において定型発達者と比較して低下している傾向がみられた。 2) また、ASD患者では定型発達者よりも皮質下ネットワークと感覚運動皮質の機能的結合が高く、皮質下ネットワークと小脳間の機能的結合は低いことが判明した。この結果は昭和大学で取得された独立の安静時fMRIデータにおいても再現された。 3) 取得済みの「心の理論」課題中のfMRIデータの再解析により、他者の内的心理状態を推測する課題に取り組んでいるとき、大脳皮質の「心の理論」領域とともに右小脳後部の賦活も高まることが確認された。 2) および 3) の知見は、小脳が「心の理論」領域および皮質下領域とネットワークを形成して社会的認知やASDの病態に関与していることを示唆している。この見方は社会的認知における小脳の機能を強調した近年の報告(Heleven et al., 2019; King et al., 2019)とも合致する。
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