研究課題/領域番号 |
19K14365
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
松本 良恵 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 非常勤研究員 (30772735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 向社会行動 / 利他性 / 協働行為 |
研究実績の概要 |
本研究は、他者と共に自己利益の最大化を可能とする相利的協働行為が、協力的関係の形成にどのような役割を果たし、ヒトの利他性の生起にどのような影響を与えるのかを実験室実験を用いて検討する。2019年度は実験デザインの構築に先駆けて、利他性にかかわる先行研究で得られたデータをもとに他者との協力関係形成に関連し得る複数の心理変数間の関連を再分析した。その結果、協働行為は自己利益の最大化を可能とする行為でありながら、そのやり取りが1回限りである場合には 、協働行為を行うかどうかの意思決定に、個々人の持つ一般的信頼の高さが影響することが示唆された。さらに、利他性の背景にあると考えられる一般的信頼(Yamagishi et al., 2015)の欠如と陰謀論信奉との関連を含む複数の知見が得られ、その知見を国内外の学会にて公表した。 相利的協働行為が集団内の協力行動に与える影響を検討するための実験デザインの構築を行い、実験プログラムを開発した。それと同時に、実験参加者の匿名性の維持を可能にする実験室の設計及び構築と、実験参加者プールの構築を行った。大学生を対象としたプレ実験の結果は現在解析中であるが、予備的な分析の結果、他者との複数回の協働行為が行われる場合には、個々人の持つ一般的信頼が、二者間の協働行為に与える影響は弱まることが示唆された。 さらに、集団内における複数人での協力行動に影響を及ぼすのは、集団内での二者間の協働行為の経験というよりむしろ、試行錯誤を伴って相手と同じ行動をとるよう自身の行動を調整する経験である可能性が示唆された。このような同期行動が、どのように協力行動に影響を及ぼしていくのかについては、詳細に分析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、大学生を対象としたプレ実験のための準備を行った。具体的には、実験参加者の匿名性を維持した状態で実験を実施するための実験室を整備し、効率的に実験参加者募集をかけられるよう、Webシステムを用いた実験参加者プールを構築した。この準備態勢を整えるうえで、既に実験体制の整っている複数の大学での情報収集を行った。実験室が完成するまでの間は、利他性にかかわる先行研究で得られたデータをもとに他者との協力関係形成に関連し得る複数の心理変数間の関連を再分析した。 実験参加者の募集を開始したものの、応募状況が芳しくはなかったが、最終的には申請段階で計画していた程度の参加者数を確保することができた。実験によって得られたデータを分析することにより、行動の同期に伴う試行錯誤といった、協力行動に影響を与え得る新たな要因が見出された。今後は、2020年度後半の本実験に向けて、プレ実験のデザインの精緻化を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はまず、2019年度に行った実験の結果から得られた知見をもとに、実験デザインの精緻化を行う。そのうえで大学生を対象としたプレ実験を繰り返し行い、実験デザインを改良する。2020年度の後半には、非学生サンプルを対象とした本実験を実施する予定である。ただし、実験室に参加者を実際に招いての実験が実施できない可能性を考慮して、実験室実験のほかに、Webベースで実施可能な場面想定法実験を実施する準備も行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では、玉川大学で実験を行う予定であったが、研究代表者の所属変更に伴い、一橋大学で実験を実施することになった。このため購入予定であったPCや分析のためのソフトウェア、実験マテリアル作成のためのソフトウェアが既に整備されており、改めて購入する必要がなかった。さらに、プレ実験の結果から、申請時には想定していなかった新たな知見が得られたため、次年度に実験デザインを改良して実験を行う必要があると判断し、繰り越しすることを決めた。実験デザインの改良の必要性が出てきたものの、2020年度は計画通り学生を対象としたプレ実験と、非学生サンプルを対象とした本実験を行う予定である。
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