研究課題/領域番号 |
19K14365
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
松本 良恵 玉川大学, 脳科学研究所, 研究員 (30772735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 向社会行動 / 利他性 / 協働行為 / 行動の同期 / 協力行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、他者と共に各自の自己利益の最大化を可能とする二者間の相利的協働行為が、集団内での協力行動の維持にどのような影響を与えるのかを検討することを目的としている。実験室実験を用いて、相利的協働行為に含まれる相互依存性、行動の同期性、裏切りの誘因の有無、得られる結果の対称性の成分を切り分ける経済ゲームを行い、相利的共同行為のいかなる要因が、集団内の協力行動を引き出すかを明らかにする。 これまでの検討では、集団での協力を引き出す4つの条件(①自分と相手の意思決定に応じて、互いの利益が影響を受ける相互依存関係にあること、②相手と行動が同期すること、③裏切りの誘因がない状況であること、④二者間の相互作用によって得られる利益の対称性)が明らかになった。しかし、二者間の相互作用における4つの要因が、どのような機序で集団内での相互協力を達成するかについては、心理尺度や事後質問等の項目を検討しても解明できないままだった。①③の要因が必須であることはこれまでの実験で自明だったことから、②と④の要因に注目し、どちらの要因がどのように集団内での相互協力に影響しうるのかを検討するためのオンライン実験を行う予定だった。 今年度は、それまで行っていた実験室実験の内容を、Webベースで実施できるようにするためのマテリアルの大幅な修正を行った。マテリアルはおおむね完成したものの、今年度はデータを収集するまでには至らなかった。 今後は、完成したマテリアルを使ってデータを収集し、②、④の要因のどちらがより重要なのかを特定することが求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに行ってきた実験研究から、集団での協力を引き出す4つの条件(①自分と相手の意思決定に応じて、互いの利益が影響を受ける相互依存関係にあること、②相手と行動が同期すること、③裏切りの誘因がない状況であること、④二者間の相互作用によって得られる利益の対称性)が明らかになった。2022年度は、この4つの要因のうち②と④の要因に注目し、どちらの要因がどのように集団内での相互協力に影響しうるのかを検討するための実験を行う予定だった。 新型コロナウィルス感染症の影響から、実験室実験の実施は困難であっため、実験室実験で使用してきたマテリアルをオンライン実験用に作り変えた。本研究においては実験中に他者と相互作用をしている感覚が得られることが極めて重要であるが、自宅から参加してもらうオンライン実験では、実験参加者にそうした感覚を持ってもらうことは困難な可能性が高い。このことから、そうした感覚が得られるようにするために、一連の実験マテリアルの大幅な修正を行った。このことから、2022年度は本実験を実施してデータを収集するには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で明らかになっている①相互依存性②行動の同期③裏切りの誘因がないこと④互いに得られる利益が対称であり利益格差が生じないこと、という4つの条件を含んだ相互作用が集団内協力を維持するメカニズムのうち、②と④の要因に限定し、いずれの要因が、集団内協力を維持するのかに関するさらなる検討を、オンライン実験によって行う。 2023年度が、最終年になることから、得られた研究成果の報告を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、実際に実験室に参加者を呼んで実験を実施することは困難だったため、オンライン実験を行うことを計画していた。そのため、これまで実験室実験で使用していたマテリアルを、オンライン実験用に作り変える必要があった。オンライン実験では、各実験参加者の自宅から参加してもらうことになることから、PCやスマートフォン等のデバイスを問わず、可能な限り同じ画面表示となるように調整が必要だった。また、本研究においては実験中に他者と相互作用をしている感覚が得られることが極めて重要であるが、他の参加者が実際にそばにいるわけではないオンライン実験においては、実験参加者にそうした感覚を持ってもらうことは困難な可能性が高かった。この問題を乗り越えるため、画面表示の変更や画面遷移のタイミング等の修正、さらに実験手順の変更も行った。これらの過程で、当初想定していた以上に慎重な修正が必要であることが分かり、他者と相互作用をしている感覚が実験室実験の場合と同様に生じるかについて、繰り返し検討を重ねた。これにより、マテリアルはおおむね完成したものの、2022年度中にデータ収集をすることがかなわなかった。 2023年度は、完成したマテリアルを用いて、集団内で協力を生み出す要因を特定する実験を行い、研究成果をまとめる予定である。
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