研究課題
本研究は、社会的意思決定において、自身の利得のみを気にする者(proself)と、他者の利得も気にする者(prosocial)との間のメカニズム上の個人差が、リスク認知方略(意思決定の際にどのようなリスクに重きを置くか)によってよりよく説明可能になるという仮説を検討することを目的としていた。本年度はその目的のために、(a)相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲームのデータ解析と、(b)社会的リスクの少ない経済ゲームのデータ解析に関する論文執筆を行なった。(a)prosocial型の人はproself型の人よりも相手から搾取されるリスクに重きをおいて社会的意思決定を行うという仮説を検討するため、「相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲーム」の実験データの計算論モデリングを用いた解析を行った。具体的には、自身と相手がどれだけ報酬を得たか(相手からの搾取がなされたか否か)のみを重視する意思決定モデルと、自身の行動を受けて相手がどのようにふるまいを変えるかを重視する意思決定モデルを構築し、prosocial/proselfがこれらどちらの意思決定メカニズムに比重を置いてゲームを行なっていたかをパラメータ推定した。この分析結果は第46回日本神経科学大会にて発表することが確定している。(b)社会的意思決定に伴うリスクが比較的少ないような場面でのproself/prosocialの意思決定メカニズムの個人差を検討するため、複数の繰り返しなしゲームの行動データと遺伝学的特性との関連の分析を行なった。これにより、社会的意思決定メカニズムにおけるリスク認知とリスク認知方略の役割をより仔細に検討できるようになった。この分析結果は第45回日本神経科学学会にて発表を行なった他、現在Proceedings of the Royal Society B誌に投稿中である。
3: やや遅れている
研究実績の概要の通り、(a)相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲームのデータ解析と、(b)社会的リスクの少ない経済ゲームにおける意思決定に関する論文執筆を行なった。本研究の仮説は、社会的意思決定の際、(1)自身の利得のみを気にする者(proself)は評判悪化リスクを、(2)他者の利得も気にする者(prosocial)は相手から搾取されるリスクをより気にするというものであった。昨年度は評判悪化リスクのある経済ゲームを用いることで(1)の仮説の検証とその成果報告を行ったことから、本年度は残りの(2)の仮説の検証のため、(a)の「相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲーム」の実験データの解析を実施した。この分析結果は第46回日本神経科学大会にて発表することが確定しており、論文執筆に向けての準備も進められている。また、本研究はもともと社会的意思決定におけるリスク認知方略の影響の個人差とその神経科学的基盤を検討するものであった。しかし、そのようなリスクが存在しないような場面での意思決定、すなわち各個人のデフォルトの意思決定メカニズムが分からなければ、そこに対するリスク認知の真の影響の大きさを知ることができないという結論に達し、(b)「繰り返しのない経済ゲーム」の行動データ分析を行うことにした。この分析結果をまとめた論文は昨年度も学会誌に投稿を行なったが、本年度はその分析方針と議論をより精緻に改めた上で、現在Proceedings of the Royal Society B誌に再投稿中である。一方で本来実施する予定であったfMRI実験は、昨年度までに受けた新型コロナウィルスの影響によりその実施計画を修正・延期せざるを得なかった。以上、本課題はやや遅れた進捗状況にあるものの、仮説の検証に向けた着実なデータ分析や、一部の分析結果の学会誌への投稿といった成果を生むことができた。
「現在までの進捗状況」に則り、今後は(1)「相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲーム」の実験データの解析結果についての論文執筆、(2)fMRI実験、およびその統計解析にうつる予定である。特に(2)については、評判悪化リスクおよび相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲームのfMRI用の課題プログラムを作成する。玉川大学脳科学研究所の保有する一般サンプルよりproself/prosocialに該当する参加者の課題中脳活動データを取得し、評判悪化リスクおよび相手からの搾取リスクへの重みづけと関連する脳領域について分析する。分析結果はこれまでの研究結果と合わせ、神経科学系の論文雑誌への投稿を目指す。fMRIデータの取得が引き続き困難な場合、すでに取得済みである脳構造や安静時脳活動、遺伝子多型といった他の神経科学的指標と経済ゲーム中の行動との関連の分析を行う。
本年度は当初、国際学会での研究報告のための参加費や旅費、玉川大学脳科学研究所におけるfMRI実験の謝金費といった支出を予定していた。しかし、新型コロナウィルスの影響により海外への渡航が困難であったことから、国際学会の参加費や旅費の支出をする必要がなくなった。また、玉川大学脳科学研究所の方針としてヒトを対象とした実験が大きく制限されたことから、実験の計画変更を余儀なくされた。その結果、昨年度に引き続き経fMRI実験については実施計画の修正・延期の決定に至った。次年度は、fMRI実験における謝金費に研究費を充てる予定である。また、次年度参加予定の国際学会が現地開催であることから、そこでの研究結果報告の参加費・旅費のためにも研究費の使用を計画している。
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