本研究は、社会的意思決定において、自身の利得のみを気にする者(proself)と、他者の利得も気にする者(prosocial)との間の個人差が、リスク認知方略(意思決定の際にどのようなリスクに重きを置くか)によってよりよく説明可能になるという仮説を検討することを目的としていた。本年度はその目的のために、昨年度に引き続き(a)相手からの搾取リスクのある繰り返し経済ゲームのデータ解析と、(b)社会的リスクの少ない経済ゲームのデータ解析に関する論文執筆を行なった。 (a)prosocial型の人はproself型の人よりも社会的意思決定の際に相手から搾取されるリスクに重きをおくという仮説を計算論モデリングによって検討し、この仮説を支持する結果を得た。本結果は神経科学の国際学会(Organization for Human Brain Mapping)にて報告を行った。 (b)社会的意思決定に伴うリスクが比較的少ないような場面(無リスク状況)でのproself/prosocialの意思決定メカニズムの個人差を検討するため、複数の経済ゲームの行動データと遺伝学的特性との関連の分析を行なった。この分析結果はProceedings of the Royal Society B誌に受理され、論文化された。 研究期間全体を通して、2020年1月から蔓延しはじめた新型コロナウイルスにより、実験計画の見直しを余儀なくされた部分もあったものの、(1)評判悪化リスクおよび(2)搾取リスクがある場合のproself/prosocialの社会的意思決定メカニズムの計算論モデリングによる検討、(3)どちらのリスクもないデフォルト状況における社会的意思決定の個人差の遺伝学的基盤の検討を行い、(3)については国際誌において論文化することができた。(1)(2)についても論文化に向けて引き続き研究を進める予定である。
|