研究課題/領域番号 |
19K14370
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石井 辰典 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員(研究院講師) (40708989)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 宗教的信念 / 心の理論 / 宗教認知科学 / メタ分析 / 潜在的指標 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、宗教的信念の起源についての“心の理論仮説”を検証することである。すなわち、神のような超自然的な存在を素朴に信じる気持ち(宗教的信念)が、自然現象や非生物を擬人化し心を見出してしまう傾向(心の理論の能力)から派生して生じたものだという仮説を、実証的に検討する。 近年、宗教を言語と同様にヒトの生み出す文化の1つと捉え、宗教的信念の心理的な起源を探る学際的領域である宗教認知科学が急速に拡大しているが、本研究が注目する心の理論仮説は、宗教認知科学が中心的な理論の1つとして検討してきたものである。しかしながら2015年以降、この仮設を支持しない研究も報告されるようになった。そこで本研究では「宗教的信念は、本当に私たちの心の理論能力から生まれたのか?」を核心をなす問いとし、これに挑む実証研究を日本から展開することとした。 本研究は、まず【研究1】メタ分析を行い、先行研究における心の理論能力と宗教的信念との関連の強さ(効果量)、効果が観察される方法的条件、また出版バイアスの有無を明らかにする。次に【研究2】“神”への潜在的態度の測度を開発し、先行研究が依拠してきた宗教的信念の意識的側面(自己報告式尺度)に加えて、非意識的な側面の指標化を目指す。そして【研究3】研究1と2の成果を踏まえて、心の理論能力と宗教的信念の関連を改めて検討する。 本研究は、日本において宗教認知科学研究の先鞭をつけるものであり、その先駆性に独自な点がある。また文化的・宗教的に西洋と比べてユニークな日本から知見を国際的に発信することは、宗教認知科学の議論の深化だけでなく、日本心理学会のプレゼンス向上にも寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の目標は、心の理論能力と宗教的信念の関連を検討した先行研究を収集し、この関連の強さ(効果量)、効果が観察される方法的条件、また出版バイアスの有無を明らかにするためのメタ分析を行った。 現在まで、メタ分析に必要な統計的手法や方法論について学び、それと同時に関連する出版済みの関連論文は概ね収集が終わっている。ただし、出版されていないデータ・学位論文のデータも収集する必要があり、これについて海外の学会メーリングリスト等で呼びかけを行っているところである。 このメタ分析とは別に、日本国内の大規模研究(N=2000~)を実施し、心の理論の能力の指標(共感化指数, Wakabayashi et al., 2006)と宗教的信念の尺度(Ishii, 2007)の関連は、デモグラフィック変数などを統制しても有意であった。ただしその効果量は、先行研究で論じられてきたよりも低いことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、メタ分析を進めつつ、その結果と、日本国内で得られたデータ・そこからの結論との比較を行い、心の理論と宗教的信念の関連についてさらに検討していく。そしてこの成果は国際誌への投稿を目指す。同時に、申請した研究計画の研究2:宗教的信念の潜在的測定方法の開発を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年からのインフルエンザ・新型コロナウィルス感染症の流行により、一部の海外出張・海外学会への参加を取りやめたため、使用予定額と実際の使用額に差が生じた。
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